Daycare Center rather than Direct Subsidy

またしても大竹さんのブログから。色が変わって多少読みやすくなった。

日経新聞の「経済教室」というコーナーで、宇南山さんと言う学者が、少子化対策としては児童手当よりも保育所の整備の方が効果が高いと論じていたそうだ。「経済教室」のelectric copyが手に入らないものかと検索を続けていたところ(存在していないのなら日経新聞はアーカイブを作ってくれるとうれしい)、mk-kotaさんが、元になっている論文を紹介してくれていたのでそれをぱらぱらと眺めてみた。

宇南山さんの基本的なロジックは以下の通り。

1. 出生率(正確には合計特殊出生率。大雑把に言うと、一人の女性が一生のうちに生む子供の数。wikipediaによると2.08以上(以下)であれば人口は増加(減少)するとのこと。)は1970年の2.13から2005年には1.26まで低下した。

2. その主な要因について考えてみると、結婚している女性に限ると出生率はむしろ上昇している。その一方、生涯未婚率(50歳の時点で結婚していない人の割合)は女性で1950年の1.3%から2005年の7.2%に、男性では1950年の1.4%から15.6%まで上昇している。

3. よって、結婚数の減少が少子化(出生率の低下)の主な要因である。結婚すれば子供は作るのだが結婚が減少してしまっているのである。

4. 結婚している女性が平均的に生む子供の数は同じだと仮定すると、結婚数を増やせば子供が増えることになる。

5. 以前より結婚の数が減少したのは女性の収入が増加したからである。結婚および出産をすると、仕事を休まなければならなかったり、キャリアをあきらめなければならないことが多いが、収入が増えたことによって仕事をやめたくない女性が増えたのだ。

6. よって、特に潜在的に結婚したいけれども上記の理由で結婚していない女性が多くいる地域に、育児所を充実させたり、企業が内部に育児施設を作ることに対して国が補助をすることで、結婚および子供の数を増やすことができる。

7. この政策は、出生率の上昇と、労働力の増加(より多くの女性が働き続けることになるので)が同時に達成できるという一石二鳥の政策である。労働力の増加によって税収も増える。

このような議論が活発に行われるのはとてもうれしいが、上のロジックにはいくつか気になる点がある。基本的には上でも参照させてもらったmk-kotaさんの意見に賛成である。

まず、4の仮定は非現実的だ。少し無茶なたとえを使うと、自殺者の多くは橋から飛び降りるから橋を減らせば自殺が減るというのと同じ議論である。おそらくは無視できない数の人はそもそも子供を持つことあるいは結婚にに対するutilityが低いのであろう。そういう人の多くが、保育所の充実によって結婚するか、結婚したとしても、今結婚している人たちと同じように子供を作るか、大いに疑問がある。そもそも、出産のdecisionを明示的に取り込んでいないモデルを使って議論するのは乱暴すぎると思う。

5にも議論の飛躍がある。政策の効果を真剣に測りたいのであれば結婚が減少した理由についてより精密な議論が必要だと思う。

6の議論の際に使われた数字もあやうい。大都市圏の未婚率が育児所の充実によって全国平均にまで下げられることを前提にしているが、上の議論に加えて、大都市圏に住む人のバイアス(大都市に育った人は全国平均の人と考え方が違ってもおかしくないし、大都市に移住してきた人も全国平均の人と考え方が違うから引っ越してきたと考えてもおかしくない)を考慮する必要があると思う。

最後に、育児所の受け入れ人数を増やせばその分だけ結婚および出産が増加すると仮定して政策の効果を計算しているが、既に子供がいて育児所に入れたいけど入れられない人が多くいるだろうから、少なくとも短期的には、育児所の受け入れ人数増加が出生率を1対1で増やすことはないと思う。

全体的に、基本的なロジックは有効だと思うが、政策の効果という面では筆者にとって都合のいい仮定が多すぎるというのが感想である。

個人的には、育児所は、(i) 育児所は使途を限定した子供手当てのようなもの、(ii)育児所の質が十分高いとすると、収入が高い女性ほどこの制度によって得をする、という点で子供手当より優れていると思う。

Specialization or Discovering Taste?

Market Designで言及されていた論文Ofer Malamud (NBER WP2009)。Abstractしか読んでいないがこれは面白い。

大学が将来のキャリアに与える2つの異なる効果を考察した論文。大きな問題は以下のものである。大学では、早くから専門に特化させて専門分野の知識を蓄える方が将来の役に立つのか、あるいは、専門を選んで特化し始めるまでに時間を与えて個人個人にに合った専門分野を選ばせるべきなのか。もし各人が自分にあった分野をすぐに選べるのであれば大学では早くから特化させてより多くの専門知識を習得させた方が有効な一方、もし各人が自分にあった分野を選ぶのが難しいのであれば、早くから特化すると、間違った分野に特化してしまい、後でキャリアを変更する羽目になると大学で学んだ専門知識が無駄になるリスクがある。

イギリスではScotlandの大学が専門分野への特化を遅らせるシステムを採用していて、Englandでは早くから専門分野に特化させるシステムを採用しているので、この比較が可能であるらしい。

彼の論文の主要な発見は、Scotlandの大学のシステムを出た生徒の方が、後でキャリアを大幅に変える確率が低いということである。このこと自体は、大学で時間をかけて自分にあった専門を選ぶことが専門知識習得に匹敵する位重要であることを意味する。しかし、必ずしも、ScotlandのシステムがEnglandのシステムより優れていることを意味しない。

日本の主な大学では大学受験時に専門をかなり狭める(文系理系の区分)という、更に極端なシステムを採用している。これが本当によいシステムなのか検証する必要があるのではないか。アメリカではまったく逆のシステムを採用していることも念頭に入れておく必要があるだろう。日本では大学は主にselectionのために存在するのでこのような議論は日本では重要ではないということもできるかもしれないけれど。もう一つ、日本の大学との関連で言うと、少なくともトップ大学のひとつである東京大学では、2年次まで専門を完全には固定しない制度(いわゆる「進振り」)を採用している。東京大学で学位を取得した学生が他大学の学生より平均的に高い賃金を得ているならば、この制度が多少なりとも貢献しているのか、興味がある。

Taxes vs Spending

Mankiwのブログで紹介されたもの。ペーパーはAlesina and Ardagna (WP2009)。

1970年から2007年の間にOECD諸国によって実施された財政拡張(財政収支がGDP比1.5%以上悪化したケースと定義)および財政縮小(財政収支がGDP比1.5%以上改善されたケースと定義)がどのような効果を持ったかを調べたペーパー。主なfindingは3つ。

  1. 減税の方が財政支出増加より経済成長を促進する可能性が高い。
  2. 財政支出削減の方が増税より債務のGDP比を改善する可能性が高い。
  3. 財政支出削減の方が増税より不況を引き起こす可能性が低い。

Taxがインセンティブに与える影響の重要性は常々指摘されてきていることなので驚くことではないが、上のようにきれいに結果を示されるとなぜか新鮮である。あえてナイーブな解釈をすれば、不況の際には減税を実施、好況の際には財政支出を削減し、政府を小さくしていけばよいのである。

Moratorium

また短いエントリーを。

中小企業向け融資などの返済猶予の求めに応じる努力をすることを金融機関に求める法律(通称モラトリアム法案)が採決されたようだ。どのような考えの下に実施されたかはちゃんと調べてないのでわからないけれど、最近の政策の内容と決定過程から察するに、中小企業かわいそうだから助けよう、政治的にも受けがいいぞ、位の考えなのだろう。もしそういうことなら、賛同する経済学者は稀なのではないか。ここでは、経済に長期的に与えるマイナスの影響を3つあげておきたい。

1つは、もし金融機関なら、今後、中小企業に融資する際に審査をより厳しくするか、将来モラトリアムが義務化された際のコストをカバーするプレミアムをつけるであろう。中小企業の定義が何なのか調べてないのでわからないけれど、そのthresholdぎりぎり上と下の企業に対する融資がどう変化するかを見れば、どのような悪影響があったか図ることができるかもしれない。

2つ目は、企業が、将来モラトリアムの恩恵を受けることを期待して、大きくならないインセンティブをあたえる。もし、雇用者数で中小企業が定義されているとすると、thresholdぎりぎりの企業は新規採用をして「中小企業」から外れることに躊躇するであろう。この効果は測るのが難しいが、中小企業の定義が安定していて、thresholdに近い企業を識別することが容易であれば、測ることができるかもしれない。

3つ目は、本来早くつぶれるべき企業がしばし延命されてしまい、resourceの効率的な再配分を妨げることもあるだろう。長期的には問題がない企業が短期的に資金繰りに困っているケースではモラトリアムは有効かもしれないが、そういう企業は政府が口を出さなくてもちゃんと新規融資を得られるのではないか。

経済学者も、「仕分け」に騒いでいる暇があったら、重要なissueに対してもっと積極的に発言するべきでは。

CBO

少しこれまでと違う路線で書いてみる。

アメリカは健康保険改革で盛り上がっているが、さまざまな改革案を評価する上でCBO (Congressional Budget Office)という組織が重要な役割を果たしている。CBOは組織としてはCongressの下に位置するが、機能的にはCongressから独立している。たとえば現在何をやっているかというと、さまざまな健康保険改革案を実施するといくらかかるか計算したり、マクロ経済に与える影響を分析したりしている。もちろんそのほかにもいろいろな分析を行っている。優秀なマクロ経済学Ph.D.を大量に使って分析を行っており、その数字にも信頼が置かれている。

日本にもこのような組織は作れないだろうか。たとえば、民主党が政権をとって公約を全部実施したらいくらかかりますといったことを計算できていれば、財政的に非現実的な公約を掲げることを防ぐ力にならないだろうか。もしかしたら日本のどこかの役所がそういう計算をしているかもしれないが、役所が計算した数字を信頼している人は稀だと思う。

もし実現できるのならば、総額ではなくて、一人当たりいくら税金が増えるかで表示してくれるとわかりやすいと思う(もちろん累進性とかは無視した話だけど)。今の日本の財政赤字なり債務総額は大きすぎて(これだけ大きいのにあまり皆騒いでいるように見えないのはある意味すごいことだと思う)、僕はぜんぜん現実感を持って理解することができない。

Rational Inattention Part-1

Rational Inattentionという理論がある。Hyperbolic discountingやHabitと並んで、一時的な流行で終わるだろうと思っていただのだけれどしぶとく残っていて、今でも時々ペーパーを見かける理論の一つだ。日本語になんのひねりもなく訳すと、「合理的不注意」になる。なんのひねりもなく説明すると、人々が合理的に不注意になることを選択する理論だ。昨今ブームの(個人的にはこれも流行で終わる確率が少なからずあると思う)行動経済学の一派として捉えている人もいるのかもしれない。

基本的な考え方は、何らかの理由で人はいつも周囲の情報に周囲を払いきれない、というものである。なぜこのような理論が重要なのか?スタンダードなマクロのモデルでは、家計は経済に関するあらゆる情報をもとに常に最善の決定を下すと仮定されている。ただ、その仮定の下で導き出されるimplicationsの中には現実にそぐわないものが見られる。じゃあ、スタンダードなモデルの仮定の何かがおかしいのだろうということでさまざまな改善方法が提案されてきているわけだが、Rational Inattentionもそのひとつと考えられる。

Rational Inattentionは、特に金融政策との関連で使われることも多い。なぜなら、金融政策が効果を持つ(Non-neutralityと呼ぶ)ためには、スタンダードなマクロの仮定の何かをくずさなければならないからだ。Rational Inattentionは金融政策に効果を持たせることができる仮定(で比較的もっともらしい)の一つなのである。

ただし、ここでは、Portfolio choiceを例として扱う。僕にとっては少なくとも、こっちの方がわかりやすい。Bill君がMicrosoftとAppleの株を持っているとする。スタンダードなモデルで想定されるBill君ならば、MicrosoftとAppleに関する情報をすべて勘案して、毎日株の売買をするはずなのだが、そんな人はあまりいない。何でだろう。売買にコストがかかる(Transaction cost)というのは一つの説明方法なんだけれども、ここでは取り扱わない。Bill君は、何かしらの理由で、MicrosoftとAppleに関する情報を常にアップデートしておけないからだ、というのがRational Inattentionである。一見すると、Bill君が合理的でない行動をとっているように見えるかもしれないけれども、本当は、Bill君は最善の情報に基づいて行動してだけないのである。実際、最善の情報に基づいていないケースと、最善の行動が取れないケース、をデータから識別するのは難しいと思う。

実際のモデル化の方法としては2つのメジャーな方法がある。Mankiw-Reis方式と、Sims方式だ。毎回一話完結にすると続かないので、次回からひとつずつ簡単に紹介する。

[11月11日に修正&大幅加筆]

News Shock

ニュースショックというものがBusiness Cycle Theoryの分野で流行っているらしい。流行っているといっても重要なペーパーは90年代の半ば(Beaudry-Portier, JME1994)に出ているからもうかなりの期間流行っているのを見落としていただけなのかもしれない。日本人の研究者たちも重要な貢献をしているようだ。最近ではAERの巻頭まで飾っていた(Jaimovich-Rebelo)のでぱらぱら眺めてみたし、セミナーでも最近聞くことがあったので、頭の整理がてら少し書いてみる。基本的にはAERペーパーの受け売りである。

基本的なストーリーはかなり直感的なものだ。将来の生産性を高める技術革新が起こったというニュースが現れたとする。そうすると将来その技術が使えるときに備えて投資が活発になって、まだその技術革新が起きていなくてニュースが流れただけなのに投資が活発になって景気が上向くというものだ。

ただ、このロジックをRBCモデルに組み込むと、なかなかうまくいかないことが知られていた。大きな問題点は2つ。1つ目は、将来技術革新が起こるとなると、将来の生産=収入が増えることが予想される。そうすると、今の時点では消費を増やすことが予想される(いわゆるincome effect)。もし今の生産があまり増えないとすると、本来投資にまわされるべきresourceが消費に回ってしまい投資は落ち込んでしまうのだ。2つ目は、将来生産性があがることがよそうされると、今より将来働いたほうが生産性が高いので、今は余暇の時間を増やすincentiveがかかる。いわゆるintertempooral substitution of laborという効果だ。よって、消費は増えるけれども、労働時間は減るし、生産はもしかしたら落ち込む(労働時間が減るので)し、投資も減るという、踏んだり蹴ったりの結果となるのだ。

Jaimovich-Rebeloは、これらの問題点を克服したというのが主な貢献だと思われる。では、どうやったかというと、(1)投資が今から増えるように投資の調整コストを入れた。調整コストがあるといっぺんにたくさんの投資をするよりゆっくり長期にわたって投資をしたほうが安上がりになるので、ニュースがあれば今の時点から投資を増やすincentiveが生じる。(2)income effectが存在しないutility functionを使った(いわゆるGHHタイプと呼ばれるやつ)。これで、消費と余暇時間の増加を消すことができる。(3)資本のutilizationの程度を調整できるようにした(variable capital utilization)。これによって生産がニュースに強く反応するようになるとintroductionでは書いてあるけど、もっとちゃんと読まないとロジックはわからない。

普通のモデルで生じる問題点(counterfactual implications)を挙げて、それを克服する方法を提示するという、古きよきRBCのペーパーの雰囲気をかもし出す、シンプルで好感の持てるペーパーだ。

これからニュースショックがさらに流行るのだろうか。僕にはわからない。ただし、ある学会で聞いたコメントには共感を覚えた。TFPが何なのか僕らははっきりわかっていない。ニュースが何なのかも僕らはよくわかっていない。TFPのニュースというとよくわかってないものの2乗だ、というものである。ニュースショックというのはそもそも観察しにくいものだから、とても自由度が高そうなので、どのようにモデル化するかによってモデルの特性がずいぶん変わってくるとなると、いろいろ柔軟に説明できる=何も説明できない、ということになる危険性がある。

On the Investment Strategy

またしても1週間以上あいてしまった。3週間目にして既に店じまいの危機だ。

しばらく前のTimeで401(k)を非難する記事があった。401(k)はリスクが高すぎる、それに比べてSocial Scurityのような確定給付年金はリスクが低くずばらしいといった感じのトーンだったと記憶している。例として、退職も近いのに401(k)の大部分を株に投資して大損して退職後の生活に不安のある人などがあげられている。普通の401(k)ならlow risk-low returnの資産に投資をすることも可能なはずなんだけど、などと読みながら考えていた。ファイナンスの教育が日本よりは進んでいるはずのアメリカでも、日本でも、こういう失敗例には事欠かない。

あらかじめ断っておくが、これを読んで投資に失敗しても、責任は取らないので注意してほしい。以下は、経済学は学んだもののファイナンス専門ではないものの意見だ。

個人の投資戦略として一般的に成り立つのはどのようなものだろうか。以下に思いつくまま挙げてみる。

  1. 長期的に投資できるのなら株(といってもSP500連動のようなMutual Fundを想像してほしい)のリターンがリスクの低い資産のリターンに負けることはまれ。Kochrlakotaが昔Minn FedのQuarterly Reviewで計算していた。経済学者と話をすると、どれだけ株式市場のリスクを取れるかで、理論への信頼度を測れる気がする。最近のblogのエントリーによるとMankiwは2/3をさまざまな種類の高リスク資産に寝かせているようだ。
  2. 退職が近づく(貯蓄に頼って生活する日が近づく)につれ、投資期間は短くなるのだから、低リスク資産にシフトすべき。上にあげたTimeの記事の例はこの戦略に従わなかったわかりやすい例である。
  3. 自分が負っている固有のリスクを和らげることのできる資産があるならそれに投資して、固有のリスクをヘッジすべき。普通の人の場合、最大の固有リスクははhuman capital(つまり生涯賃金)とhousing (持ち家)にかかわるリスクである。たとえば、Microsoftに勤めててMicrofotの株を大量に保有するのはこの戦略に反する。Microsoftの業績が悪化したら自分の給料も株の価値も下落するからだ。Microsoftの社員なら、AppleとかGoogleの株を持ったほうがヘッジという意味では有効(とはいえ同じ業界だからヘッジという意味ではもっとよい方法がある気がする)。持ち家の例を挙げると、自分がSeattleに住んでいてBoeingやMicrosoftに投資するのはヘッジという観点から好ましくない。Seattleの家の価値はこれらのSeattle周辺の企業の業績と一緒に動く可能性が高いからだ。ただし、将来にわたって引っ越す見込みがない場合とか、Seaatleに骨をうずめるのなら、リスクはあまり考えなくてよいはず。
また思いついたら加えてみる。