Rant on Multiplier

参議院予算委員会で子供手当ての「乗数効果」が話題になったようだ。重要な話なので、じっくり考えてから書くべきなのかも知れないが、盛り上がっているうちに短いながらもとりあえず感想を書く。間違っていたら後で修正なり削除なりするかもしれない。

そもそものきっかけは、財務相が説明した子供手当てがGDPに与える効果について、林さんという人が食ってかかったことのようだ。その際に、消費性向と乗数効果の関係を持ち出して議論し、財務相の方はそれらの関係について明確に理解していなかった(ように読める)ゆえに、やり取りが混乱したようだ。

僕の主な感想は、次の2つである。

1.財務相は、GDPに与える効果の根拠について、もう少しちゃんと理解しておくべきだった。多分いろいろ覚えておかなければならないことあがるので全部について細かいところまで覚えているのは大変なんだろうけれども、数字の根拠についてわかりやすい説明を用意しておけばよかった。ついでに言うと、乗数効果なんて議論に乗っからなければよかった。

2.一方、林さんという人の議論も怪しい。消費性向という言葉を久しぶりに聞いたのも驚きだけれども、それより、消費性向と支出乗数の関係なんてものを持ち出して、経済通ぶっているのが驚きだ。スリランカの首都を覚えている人が、覚えていない外務大臣に対して国際センスにかけるといっているようなものだ。僕の勉強不足なのかもしれないけれども、雪達磨式にGDPが増えるという乗数効果などというものをいまどき真剣に考えている学者(あるいは教えている先生)はいるのだろうか。

では、一般的に、乗数なるものについてちょっとふれておこう。

一般的に支出乗数というのは、政府支出を1ドル増やしたときに、GDPが何ドル増えるかを示している。どうやって計算するかというと、普通は、政府支出ショックの入ったモデル(reduced form modelでもDSGEでもいい)をestimateして、estimateしたモデルにGDPの1%にあたる大きさの予期されない財政ショックを入れて、GDPがどのように反応するかを計測することで得られる。古典的な乗数効果といった制約はないし、実質GDPを見ているので、1以下になってもぜんぜん驚くべきことではない。

ところで、注意しなければいけないのは、dynamic modelで考える場合、乗数の測り方はいくつもあるという点だ。2009年第1四半期から第4四半期までそれぞれ政府支出をg1, g2, g3, g4ドルづつ増やしたとする。他の条件がコントロールされた状況下で、GDPが2009年第1四半期からそれぞれy1, y2, y3, y4, y5, y6,...ドルだけ増えたとしよう。そのときに:

impact multiplier(即時乗数(でいいのかよくわからない))はy1/g1で測られる。政策が開始(あるいはアナウンス)された時点の効果を測るのである。これがもっとも自然な測り方である。

しかし、政府支出の効果がhump-shape(こぶ型)、つまり、最大限発揮されるまでに時間がかかる場合、impact multiplierで測ると小さく出てしまう。政策の効果が十分発揮されるのに時間がかかるとすると1-year ahead multiplier、つまりy4/g4のようなものを見る方が適切ともいえる。

cumulative multiplier(累積支出乗数)は:(y1+y2+y3+....)/(g1+g2+g3+g4)で測られる(present valueとかは無視しよう)。この乗数は、ある政策に関連した総支出に対して、未来永劫にわたるGDPへの影響をすべて足し合わせた和がどの程度の大きさかを測っている。

では、子供手当てに関する支出乗数はどのくらいであろうか。最近のアメリカでは巨大なStimulus packageのGDPへの効果(支出乗数)というのが大きな論点で、支出乗数についていろいろな議論を聞く機会があるが、子供手当てのようないわゆる補助金に関する乗数に同じ数字は単純には使えないと思う。こう断った上で、参考までに以下は支出乗数について書く。以前書いたように、残念ながらモデルやサンプル期間、対象国、によって大きく異なる。アメリカの場合、1-year aheadで0から1.6の間で論争されているように思われる。1.6というのは2009年2月にアメリカのStimulus Package(景気刺激策)の経済効果を説明する際にChristina Romerが使用したことで一躍有名になった数字である。0というのは、いわゆるRicardian Equivalenceである。最近では(驚くことではないが)Barroが支出乗数は0だと主張した。いろいろな推定値がある中で平均的な値は何かというと0.5あたりなのではないかと思う。

では、乗数の値(政府支出のGDPへの影響の大きさ)は何に依存するのであろうか?いくつかあげてみよう。
1.支出がどのくらい続くか
2.どのように新たな国の借金が返済されるか
3.流動性制約(liquidity constraint)にひっかかっている家計がどのくらい存在するか
4.その政府支出が将来の生産性をどの程度高めるか
5実質金利がどのくらい反応するか(言い方を変えれば、クライディングアウトの強さはどのくらいか)
6.国内市場はどのくらいオープンか(極端な例ではsmall open economyでは金利上昇によるクラウディングアウトは存在しない)
7.労働供給に関するincome effectの大きさ

無理やりまとめると、この議論は、古典的な静的モデルと現在普通に使われている動的なマクロモデルとの間に断絶があるという問題が根底にあると思う。

政府支出でなくて補助金の増加についての乗数がどのようなものかは、宿題としておく。多分、政府支出に関する乗数を(大きく)下回ると思う。

Baby Boom and Baby Bust

前回、労働者の年齢構成がどの程度GDPの振れの大きさに影響を与えるかというトピックを扱ったが、年齢構成がマクロ経済に与える影響というトピックを語る上ではずせない(と僕は思う)論文、Mankiw and Weil (RSUE1989)を簡単に扱ってみたい。これは、Mankiwの論文の中で、僕が好きな2つのうちの一つである。

古い論文だけれどもなぜこの論文を取り上げるのか?
1.経済の年齢構成がどのように住宅価格に影響を与えるかという重要なトピックを、シンプルかつ明快なストーリーを使って分析している。
2.主要な結果がセンセーショナルであったことから、物議をかもした。なぜ彼らの結果が間違っているか、という論文がたくさん書かれた。
3.結果がものの見事に大外しだった。僕はあまりいろいろな分野の論文を知っているわけではないけれども、ここまで有名な大外しは他に見たことがない。しかし、外れ方があまりに見事だったことから、何でおかしいかを考えることでとても勉強になる。実際、何で間違ったかという論文も書かれている。

では、内容を軽くまとめてみよう。住宅需要(大雑把には住む家のサイズと考えればよい)を縦軸、年齢を横軸にとると、そのグラフはこぶ型(hump-shape)になる。多くの人は20-30歳に親元を離れて自分の家を借りるなり買うなりし、その頃結婚したり子供ができたりすると家のサイズも大きくなる。30-40歳ごろをピークに、住宅需要はなだらかに減少していく。子供が家を出たり、退職後の生活資金の足しにするため小さい家に移ったりするからだ。

一方、アメリカでは、ベビーブームが1950年代後半に起こった。ベビーブームの影響がどのくらい大きかったかというと、1960年には20-30歳(住宅需要が激しく増加する年代である)が総人口に占める割合は13%だったのが、1980年には20%まで上昇した。1980年以降、ベビーブーマーの年齢が上がっていくと、この割合は減少していくと予想されていた(実際、2008年の20-29歳の割合は14%程度である)。

この二つの事実を組み合わせればどういうimplicationが出てくるか容易に想像できると思うが、住宅需要と年齢の関係が安定的だと仮定すると、べビーブーマーが20-30歳になるにつれて、総住宅需要は増加し、べビーブーマーの年齢が30歳を過ぎてゆくにつれて総住宅需要は減少すると予想される。

さらに、彼らは、上の議論から導き出された総住宅需要が、住宅価格と密接に動いていることを示した。例えば、ベビーブーマーが20-30代になる前の1950年から1970年ごろの間は、彼らが分析に使った住宅価格は下落している。逆に、1970年から1980年の間、ちょうどベビーブーマーが住宅需要を増加させる時期には住宅価格は大幅に上昇した。この総住宅需要と住宅価格の関係が将来にわたっても安定的であれば、1980年代以降、総住宅需要が減少していくにつれて、住宅価格も下がっていくことが予想される。

彼らの結果でもっとも脚光を浴びたのはその数字の大きさであった。彼らは、将来の人口構成についての現実的な見通しを彼らのモデルに入れてみることで、1987年から2007年の20年間の間に、実質住宅価格は47%下落するという結果を得たのである。では、実際は何が起こったか?2007年は住宅価格の最近のピークだったので結果が少し誇張されると思うが、ある住宅価格指数によると(とりあえずFHFAのHPIをCPIでデフレートしてある)、1987年から2007年の間に実質住宅価格は48%増加したのである。彼らは論文の中で、彼らの数字はいろいろな仮定に強く依存しており、-47%という数字を額面通りにとってはいけないと再三論じているけれども、効果なしであった。-47%という数字は一人歩きしてとても有名になったのである。

ただ、2007年までは間違ったとはいえ、経済学者にありがちな詭弁ととられるかもしれないが、完全に間違ったわけではない。彼らの主張するロジックは有効なんだけれども、何かの理由でその発現が遅れているのかもしれないし、彼らが考えなかった他の要素の力があまりに強すぎて彼らの主張するメカニズムはかき消されたのかもしれない。日本の住宅価格の低迷は、2次にわたるベビーブームの後の総住宅需要の下落に伴う必然の結果だと考えることはできないであろうか?

Demography, Life-Cycle, and Business Cycles

今回はJaimovich and Siu (AER2009)について書いてみる。多くの国で、過去50年の間に、労働者の年齢構成は大きく変化した。ベービーブーム、出生率の低下(少子化)、平均寿命の上昇(高齢化)、(主に結婚している)女性の労働時間の増加、早期退職、などの要因が複雑に絡まりあっていることから、各国で労働者の年齢構成の変化の仕方は大きく異なっている。

労働力は生産にとって(最も)重要な要素であることから、労働力の量・構成が変化すると、マクロ経済に大きな影響を与えると考えられる。個人的にはこのような理論はスケールが大きくて好きだ。簡単な例としては、シンプルな成長論で使われる成長会計(growth accounting)だ。労働力が大幅に増えれば、GDP(一人あたりGDPではない)は大幅に増加する。日本だって女性が皆子供を8人生むようになれば、GDPはあっという間に上昇する(おそらく一人当たりGDPは(最低短期的には)低下するけれども)。

Jaimovich and Siuが注目したのは、労働力の年齢構成がGDPの振れ具合(volatility)にどのように影響を与えるかである。多分この研究を始めるきっかけになったのは、The Great Moderation(アメリカにおいて景気循環の振れ具合が1984年以降大幅に低下した事)の背後に、労働力の年齢構成の変化があったのではないかという推論だ。現在のrecessionの真っ只中で、The Great Moderationについて語るのはちょっと場違いな感じもあるが、この論文が注目されいた頃は、The Great Moderationの背後にある要因の分析(主な対立軸は「金融政策がよくなったからだ」というグループと、「運がよかっただけだ」というグループ、「金融セクターの発達によるものだ」というグループの三つ巴であった)が盛んであった。まぁ、今回のrecessionが終わって再び景気循環によるGDPの振れ具合が小さくなれば、この研究プログラムも再び活性化すると思う。

横道にそれてしまったが、どういう経路で、労働力の年齢構成がGDPの振れ具合に影響を与えることができるであろう。Jaimovich and Siuが注目したのは、平均労働時間がどのように景気に影響を受けるかは各年齢層によって大きく異なるという事実である。特に、若い労働者(彼らの分類では15-29歳)と、退職間近の労働者(60-64歳)の平均労働時間は景気に大きく影響される(景気と強い負の相関を示す)一方、中間の労働者(30-59歳)の平均労働時間は比較的景気に影響を受けない。なんでだろう。若い労働者については、景気が悪いと職が見つけにくいので学校にとどまることもある(MBAの願書の数は典型的なcountercyclical variable(景気と逆相関する変数)とよく聞く)。退職間近の労働者は、景気が悪いと退職を早めるのかもしれない。数字を見てみると、15-19歳の平均労働時間は40-49歳の労働者に比べて約5倍景気に対して強く反応する。65歳以上の労働者の労働時間は40-49歳のグループに比べて約2倍強く反応する。縦軸に景気への反応性、横軸に年齢をとると、労働時間の景気への反応の強さは、U字型になるのである。

彼らは日本のデータも使っている。日本のデータでは、15-19歳の労働者の反応度は40-49歳のグループに比べて約4倍、65歳以上のグループは40-49歳に比べて約1.5倍となっている。程度は少し異なるが、基本的な構図(U字型)はアメリカと同じである。

彼らの計算によると、OECD諸国の平均では、30歳以下のグループは、労働力の30%しか占めていないけれども、総労働力の振れ(volatility)の50%を生み出している。

少し寄り道すると、このU時型は、この事実とよく似た別のU字型と違うことに注意しよう。同じ年齢層の労働者の労働時間のばらつきを縦軸、年齢を横軸にとると、同じくU字型になることが知られている。若い労働者は進学していたりする人も多いため、同じ年齢層の労働者の間での労働時間のばらつきが大きい。65歳以上も、退職している人やしていない人がいるので、ばらつきが激しい。この事実は、Jaimovich and Siuがこの論文で注目している事実と異なる(こっちの方が有名である)。

話を進めよう。各年齢層で労働時間の景気への反応度が異なるとすると、労働力の年齢構成によって、トータルの労働力が景気にどう反応するかは大きく異なることになる。極端な例を挙げよう。労働力がすべて30-59歳の人で構成されていたとしたら、経済全体の労働時間は景気に対してあまり反応しないことになる。反対に、労働力がすべて10代あるいは20代であれば、景気に応じて、経済全体の労働時間が大きく反応することになる。もちろん、各年齢層が景気に対してどう反応するかは、年齢構成がどのようになっているか、そして他の年齢層がどのように反応するかによって影響を受けるはずである(equilibrium feedback)が、この論文では、そのような経路は無視している(無視しても大きな問題ではないという議論をしているがここでは触れない)。

では、結果を見ていこう。まずはアメリカである。わかりやすくするために15-29歳と60-64歳の労働者が15-64歳の全労働者の中に占める割合を、「振れの激しい年齢比」(もう少しこなれた用語にしたいのだけど今のところは許してほしい)と呼ぼう。アメリカの振れの激しい年齢比は、1963年には36%、1970年代にはベービーブーマーが労働力に加わったことで大幅に上昇し1977年には44%、その後は低下し1999年には32%となっている。この比率が高いほど、総労働時間が景気の上下によって大きく反応することになるので、この比率が高い時期は景気循環が増幅され(amplify)てGDPの触れが大きくなるはずである。実際、彼らの実験によると、GDPの振れの大きさは振れの激しい年齢比とほぼ一緒に上下している。

ちなみに、「ある四半期におけるGDPの振れの大きさ」はその4半期の前後20四半期(5年)の(HPフィルターをかけた)GDPのstandard deviationとして計算されている。彼らは「ある四半期におけるGDPの振れの大きさ」を測る方法としていろいろな方法を試しているが、結果は変わらないと報告している。

次はドイツを見てみよう。ドイツでは、ベービーブームのようなものはなく、出生率の低下によって1970年以降、振れの激しい年齢比は緩やかに低下している。1970年の39%から1996年には26%にまで低下した。彼らの理論によると、ドイツのGDPの振れの大きさは緩やかに低下していくはずである。実際、その通りとなっている。

大体OECD諸国を比べると日本はいつもおかしな挙動を示しがちなのであるが、今回もその通りである。日本の振れの激しい年齢比は1963年には43%だったものが、出生率の低下と、ベービーブーマーが30代に入っていったことによって1983年の29%まで急速に低下した。しかしその後、60年代の労働者の増加によって、振れの激しい年齢比は増加に転じ、1999年には32%になっている。この振れの激しい年齢比の変化を彼らの理論と組み合わせると、GDPの振れの大きさは1963年から1980年頃にかけて低下し、それから再び上昇することになる。実際データはその通りの動きを示しているのである。

ここまでの結果を整理すると、振れの激しい年齢比がどのように変化していったかは各国において大きく異なる。彼らの理論によると、この違いによって、GDPの振れの大きさがどのように変化していくかは各国によって大きく異なるはずである。データによると、実際、GDPの振れの大きさがどのように変化していったかは、彼らの理論と調和的に、各国において異なっているのである。

最後に、彼らは、1980年代以降のアメリカにおけるGDPの振れの大きさの低下(The Great Moderation)のどのくらいの割合が労働力の年齢構成の変化によってもたらされたかを計算している。基本的には、1980年代以降の年齢構成に変化がなかったと仮定すると、GDPの振れの大きさの低下はどのように現実と異なるかを計算するだけだ。彼らのもっとも基本的な計算によると、1980年代以降のGDPの振れの低下のうち1/3は労働力の年齢構成の変化(より正確には振れの激しい年齢比の低下)によってもたらされた。

かなり早い段階のドラフトを見たときには、各年齢グループの分け方(age threshold)をずらすとずいぶん結果が違ってくるのではないかなどと思っていたのだけれども、AERに出たということはそういうことではなかったのだろう。それに、日本の景気変動の大きさが1990年代に上昇した一因は、60代の労働者の割合が増加したものだというimplicationもちょっと信じがたい。とはいえ、いろいろな国の景気変動の振れ幅の変化と整合的だという結果は、驚きである。

New Kaldor Facts

AEJ Macroを眺めていたときに見つけた、Jones and P.Romer(2010)を簡単に整理する。この論文はいわゆる「カルドア事実(Kaldor facts)」をアップデートしたものである。カルドア事実とは何か。それは、1961年にカルドアが提示した、growth modelが満たすべき6つのstylized factsである。Kaldor factsをどのように訳すのかと思って検索してみたら、himaginaryさんという人が既にかなり前にこのことを書いていたのがわかったんだけれども、まぁ、自分のために書いているようなものなので気にせず書くことにする。訳し方とかはhimaginaryさんの方が正確かもしれない。

オリジナルのカルドア事実は20世紀の経済成長において観察された以下の6つのstylized factsである。
1.労働生産性は安定的に成長した。
2.労働者一人当たりの資本も安定的に成長した。
3.実質金利(=資本のリターン)は安定していた。
4.資産と産出量の比率(Capital output ratio)は安定していた。
5.資本収入と労働収入が総収入に占める割合は安定していた。
6.高成長した国においてかなりの(2-5%程度の)成長率の格差があった。

なぜこれらが有名になったかというと、これら(正確には最初の5つ)を満たすモデルとして、ソローモデルが作られ、かつ、ソローモデルを発展させることで作られてきた近年の主要なマクロモデルは基本的にまずこれらを満たすように作られているからである。例えば、RBCモデルも成長理論で使われるモデルと景気循環のモデルの統合を目指していたので、トレンドが除去されていないスタンダードなRBCモデルもカルドア事実を(平均的に)満たしている。

では、Jones and Romerが提示した、新しいカルドア事実を順に見ていく。成長理論が専門ではないことを断った上で書くが、これらがオリジナルのカルドア事実のような地位を占めるとはとても考えにくい。これらの事実がすべてのマクロモデルに必要な要素にはとても見えないからだ。とはいえ、成長論の第1人者が作ったリストであるから50年後にはオリジナルのカルドア事実のような地位を占めているのかもしれない。

1.グローバル化、都市化に伴い、モノ、アイデア、金融、人々の動きが活発になった(かなりの意訳である。もとの文章の意味は恥ずかしながらいまひとつよくわからない)。その例として、世界全体の貿易が世界全体のGDPに占める割合が1960年には25%程度だったのが、2000年には45%ほどまで上昇したこと、及び、FDI(直接投資)のGDPに占める割合が1965年の0.1%程度から2006年には2.8%まで、およそ30倍になった、ことを挙げている。

2.人口成長率と国民一人当たりGDPの成長率は過去数千年は0%であったのが直近の100年でかなり高いものになった。アメリカと欧州12カ国のデータによると、人口成長率は、西暦0年から約1000年の間はほぼゼロ、1000年から1750年あたり(産業革命)の間は0.3%、1750年から2000年の間は約1%であった。一人当たりGDPの成長率は西暦0年から約1000年の間は人口成長率と同様にほぼゼロ、1000年から1750年あたり(産業革命)の間は0.2%、1750年から2000年の間は約2%であった。

3.一人当たりGDPの成長率のばらつき度合いは一人当たりGDPが高いグループほど小さい。これは、OECD諸国の成長率の差と、途上国の成長率の差を考えれば容易に理解できるだろう。

4.一人当たりGDPの国による格差のうち、労働と資本の投入量の格差によって説明できる部分は半分以下である。シンプルなモデルだと残りの部分(Solow residuals)はTFPの格差で「説明」することになる。このTFPの格差をいかにより深い理論で「説明」するかという研究がParente and Prescottなどによってなされている。

5.労働者一人当たりの人的資本(Human capital)は世界中で上昇している。その証拠として、アメリカにおける平均教育年数が、1880年(生まれの世代)の7.5年から1980年には14年まで安定的に上昇したことが挙げられている。

6.人的資本の供給量の増加は、人的資本の価格の下落を招いていない。もう少し噛み砕いた言い方をすると、大学卒の労働者(のsupply)が世界中で増えているのに、大学卒の労働者の賃金が下がらないのは、puzzleとして知られている。一番受け入れられている理論は、skill-biased technological changeというものである。この理論によると、人的資本を多く持つ労働者が増えれば、人的資本の生産性をより高める技術(skill-biased technology)が発展することで、人的資本を持つ労働者の需要も合わせて増加するので、人的資本の価格が下がらない。

最後に、著者らは、これらの新しいカルドア事実をモデル化するに当たって重要な要素として、(非競合的な)アイデア、組織、人口、人的資本、を挙げている。

Inflation and Redistribution

この調子では週に1-2個のエントリという目標を達成するのは難しそうだ。1月の後半にかけてスピードを上げないと。

今回は、既に少し古い論文なんだけれども、最近関連する論文の発表を聞く機会があったので、Doepke and Schneider(JPE2006)と関連する論文をまとめてみる。この論文は、一言で言うと、予想されなかったインフレによって得する人と損する人をデータから整理して、突然インフレ率がこの先10年5%上がった際、得する人と損する人が実際どのくらい得あるいは損するのか計算してみた論文である。インフレが異なる主体にどのように異なる影響を与えるか、というのは、閉鎖経済でのrepresentative agentとして国をモデル化する場合完全に無視されている要素であるが、その危険性を指摘した論文とも言えよう。

予想していなかったインフレが突然起こったとしよう。誰が得するのであろうか?いわゆる名目の債務を持っている人である。一番多いのは住宅ローンをはじめとする債務である。アメリカでいえば住宅ローンはドル建てなので、インフレが起こってドルの価値が下がれば債務の価値も下がる(よって得をする)ことになる。ドル建ての国債(インフレによって価値が調整されないものに限定する)を発行している政府も国債による債務の価値が下がるのでインフレによって得をする。企業は考えない。企業の資産と負債は間接的に家計や政府によって保有されていると考える。

一方、誰が損をするのか。名目資産を保有している人である。退職に備えて年金に入っている人たちは、年金基金が国債などのドル建ての名目資産に投資していれば、間接的に名目の債権を保有していることになる。外国(「外国」の中身はここでは考えない)も国債などを保有しているので、国債の価値が下がることで損をするであろう。

一般的にインフレは債権者から債務者への所得移転だといわれている話の精緻化である。

では、インフレによって影響を受けない資産(実質資産)とは何であろうか?最もわかりやすい例は家である。家は実質資産なので、予想されなかったインフレが起きればそれにあわせてドル建ての価格が調整されるであろう。

Doepke and Schneiderは、注意深くそれぞれの主体がどれだけの名目資産・負債と実質資産を持っているか、を計算した。彼らの計算によると、1989年において、政府はGDP比で約40%の名目負債を持っている。家計全体では30%程度の名目資産を持っている。諸外国は10%程度の名目資産を持っている。

さらに、家計の内訳を見てみよう。よいデータのある年の一つである1989年を見てみると、名目負債を多く持つ家計は若い家計と総資産の多くない家計である。どちらのグループも住宅ローンをはじめとする名目債務を多く主有しているからである。逆に、名目資産を多く所有するのはどのような家計か?高齢の家計と比較的資産の多い家計である。これらの家計は年金を通じて多くの名目資産に投資している。

ここまで書けば、彼らの実験によって何が得られるかは明らかであろう。前に書いたように、突然インフレ率がこの先10年5%上がったとする。ルーズに書くが、各主体がすぐにインフレに対応する準備ができていればこのインフレの効果は非常に小さくなるのは当然なので、ぜんぜん準備ができていないところにこのショックが起こったと仮定する(Doepke and SchneiderのいうところのFull Surprise scenarioである)。別の言い方をすれば、予想されなかったインフレによる効果の上限(upperbound)を計算していると考えればよい。このショックによって政府はGDP比で13%も得をする。逆に外国は5%損をする。家計全体では7%損をする。但し、前に述べたように、家計の中に勝ち組と負け組みが存在する。勝ち組は合計で8%も得をする。負け組みは合計で15%も損をする。もう少し具体的に書くと、大きく勝つのは35歳以下の中流家庭である。これらの家計がもっとも大きな名目債務を持っているからである。資産の少ない家計は大きな債務すらもてない(家を持っていない家計が多い)ので、あまり恩恵に蒙れないのは面白いところである。大きく負けるのは66-75歳の家計および、資産を大量に保有する家計である。

Doepke and Schneiderはもう一つ面白い実験を行っている。2001年のデータでは、インフレーションの再配分効果は1989年とどのように異なるであろうか?2001年には、政府の名目債務はGDP比で30%程度まで減り、家計合計では名目資産が10%程度に減っている。逆に、外国が保有する名目資産は20%近くまで増えている。この変化はインフレの所得再配分効果にどのような影響を与えるであろうか?政府は債務が小さくなったのでインフレによる得の幅が小さくなり(GDP比で13%から11%に減る)、家計の損は小さく(GDP比で7%から1%)なる。一方、インフレによる外国の損は大きくなる(5%から8%に上がる)。2001年以降のように、外国が資産を多く持っている状況では、インフレによって外国から大きな所得移転が見込めるのである。

この論文は当初から非常に反響が大きかった論文で、当然のようにトップジャーナルのJPEに行ったのだけれども、その後、関連する論文がたくさん書かれたかというとそうでもない気がする。なぜだろう。今すぐ思いつく理由を3つあげる。一つはまだ日が浅いというのが理由だろう。二つ目は、予想されなかった10年続く5%のインフレというのはアメリカを含む多くの先進国においては非常に大きなものである。もう少し現実的な(例えば1年間1%)インフレでは、効果は微々たるものでしかないであろう。トルコや南米諸国の研究にはいいけれども。もう一つの理由としては、マクロでインフレーションの効果を研究する研究者たちは、representative agentのフレームワークしか扱わない人が多いので、このような効果を研究するのは難しいことがあげられると思う。

とはいえ、いくつか、面白いフォローアップがある。Doepke and Schneider(WP2006)は、JPEの論文のフォローアップを書いている。この論文では、カリブレートされたOLGモデルを使って予想されなかったインフレショックがどのようなマクロ的影響を持つかを分析している。インフレショックが起こった場合の、主要な反応は以下の4つである。
1.インフレの所得再配分効果は大きい。
2.総労働投入量は下がる。インフレからもっとも恩恵を蒙る若い家計が、所得効果で、労働時間を減らすからだ。インフレによって負の所得効果を受ける高齢の家計は既にretireしている家計が多いので、若い家計が労働時間を減らす効果を打ち消すことはない。
3.資本(capital stock)は増加する。若い家計はインフレによって増えた資産の多くを将来に回すため(将来の消費も増やすため)貯蓄を増やすからだ。
4.2と3の結果としてGDPは減少するが、1の効果の方が強いため、total welfare effectは正となる。

Meh, Rios-Rull, and Terajima(WP2008)は、インフレの所得再配分効果の強さは金融政策のレジームによって大きく異なることを示した。Inflation targeting (IT)のもとで、10%のインフレが突然起こった場合、そのインフレが価格のレベルに与える効果は恒久的である。その一方、Price level targeting (PT)のもとでは、10%のインフレが突然起こった場合、それによって上がった価格レベルをターゲットに戻すために、価格レベルの上昇は一時的なものでしかない。この2つのレジームを比較すると、ITのもとでの方が予想されなかったインフレの所得再配分効果が高いのは明らかであろう。

最後に、Doepke and Schneiderの主張する効果は本当に存在するのか、という疑問がある。この質問に答えるべく、予想されなかったインフレとさまざまな家計の消費(所得再配分効果で得をした家計は消費が増えるので、消費は所得再配分効果のproxyとして使える)の相関を見てみたところ、どの家計も予測されなかったインフレが起こったときには消費が増えている(つまり、Doepke and Schneiderの主張する所得再配分効果の違いは消費のデータからは見られない)という結果を示した論文でjob marketに出ている学生がいるが、それについては、また後日詳細を書くかもしれない。

Mortality Inequality

勢いがあるうちに書き続けてみよう。Mankiw et alの論文も収録されていたJEPは、久しぶりに興味の沸く論文が多数収録されていた。今回のエントリーも同じ号のJEPに収録された論文のまとめのようなものである。Sam PeltzmanのMortality Inequalityという論文である。このPeltzmanはあのPeltzman effectで有名なPeltzmanである。この論文は、「寿命の格差」についてのデータを整理したものである。

経済学者が「格差」について考えるときに、まず考えるのは消費の格差、およびそのproxyとしての収入格差である。消費の格差を考えるのは、消費は毎期毎期のutilityに影響する重要な要素なので、消費の格差はutility(いい加減な言い方をすると幸福度)の格差のproxyとなっていると考えられるからである。

ただ、utilityの格差に影響を与えるのはもちろん収入の格差だけではない。最近、余暇の時間の格差がどう変わっていったかに関する面白い研究がなされているが、それについてはまた今度。Peltzmanがこの論文で注目しているのは寿命の格差である。普通は長く生きた方が一生で得られる幸福度も高いので、幸福度の格差を小さくするためには寿命の格差は小さいほうが普通望ましい。では、寿命の格差はどの程度で、どのように変わってきているのであろうか。この論文はこの質問に対する答えを整理したものである。

Peltzmanは格差を測るのにジニ係数(Gini index)を使っているので、簡単にジニ係数について書いておこう。ジニ係数は、格差を測る指標の一つで、0から1の値をとる。0は格差がない状態、1は格差が最も大きい状態である。国の中の収入格差で考えてみよう。国民が全員同じ収入の場合はジニ係数は0になる。国民の一人(Bill Gatesのような人を考えればよい)だけが国の全収入を得ている状態ではジニ係数は1になる。感覚をつかむために収入のジニ係数のデータを紹介すると、OECDによると、アメリカの収入ジニ係数は0.4、日本のジニ係数は0.32、スウェーデンは0.23である。日本の収入格差はアメリカよりは小さくて、ヨーロッパ(特に北欧諸国)より大きいという、よく耳にする話である。また、アメリカの総資産のジニ係数は0.8程度という、とてつもなく高い値をとる。0.8という値がどのくらい高いかというと、もっとも資産の多い家計上位20%がアメリカの総資産の80%以上を保有しているといえば感覚がつかめるであろうか。

ではPeltzmanのは論文に戻ろう。以下、論文の主要な発見を箇条書き形式で書いていく。

1. まず、寿命の格差について考えるとき、まず経済学者が考えるのは、寿命と収入のcorrelationである。これは、一般的に、Preston curve(プレストン曲線)という形で示される。国別で比較すると、Preston curveには2つの重要な特徴がある。(1)平均収入の高い国ほど平均寿命も高い。(2)収入の低い国では収入が上がるにつれて寿命も大幅に伸びるけれども、収入が高い国では、収入が上がっても寿命の延びは小さい。許可を得ず転載していいのかわからないけれど、WikiにあったPreston curveを転載しておく。



2. Becker et alの研究によると、先進国(収入の高い国)と途上国(収入の低い国)の平均寿命格差は年を追うごとに縮小している。

3.アメリカ国内における寿命の格差は大幅に縮小した。ジニ係数で測ると、1852年のジニ係数は0.476 だったのが2002年には0.108にまで下がっている。

4.より長いスパンで寿命格差をみてみよう。スウェーデン、イングランド/ウェールズ、フランス、ドイツ、アメリカ、のデータを見てみると、平均寿命(より性格にはlife expectancy)は1750年には35歳程度だったのが、1850年頃から急速に伸び始め、2000年には80歳程度まで達した。寿命のジニ係数も、1750年には0.5程度だったのが、1850年ごろから急速に減少し、2000年には0.1程度になっている。寿命が上がることが幸福度を高めるのであれば、1850年以降の変化は、平均的な幸福度を高めただけではなく、幸福度の格差も縮小させたのである。

5. このような変化の背景にあるのはどのような変化か。寿命の格差が縮小した理由の50%は幼児死亡率の低下によるものである。例えば、19世紀半ばのアメリカでは、30%の新生児が5歳の誕生日の前に死亡した。2002年においてはこの割合は0.8%である。残りの50%は若くして死ぬ大人の数が減ったことである。100歳まで生きる確率はあまり上昇していないけれども、80歳まで生きる確率は大幅に上昇した。

6.20世紀において国家間の平均寿命の格差および寿命格差の格差(わかりにくい)も継続的に縮小した。アメリカ、スペイン、日本、ブラジル、インド、ロシア、を比べると、1900年においては、アメリカの平均寿命が最も高く、寿命格差も最も小さかったが、2000年においては、すべての国がアメリカにキャッチアップしている。日本とスペインは平均寿命においても寿命格差(ジニ係数で測っている)もアメリカを追い越した。

最後に、著者は、寿命の上限(100歳を少し超える程度)は過去250年の間にほとんど変化していないことに言及している。もし、寿命の上限をあげる技術が開発されれば、クズネッツ曲線のように、寿命の格差はいったん広がって(一部の人しか新しい技術の恩恵にあずかれないかもしれないので)、その後縮小するかもしれないという面白い仮説で締めくくっている。

アメリカの平均寿命がなぜ他の先進国より低いのか、自殺率が国によって異なるのはなぜか、といった、僕が興味のあるトピックに関連した重要なデータをわかりやすく整理してくれた論文である。

Why do we use high-inflation currency?

すっかり間が空いてしまった。クリスマスシーズンはついついだらけてしまう。とはいえ、このままでは週に1-2回という目標が新しいdecade早々から崩れてしまうので、とりあえず最近聞いたペーパーについて書いてみる。非常に雑に書くので、おかしなところがあるかもしれない。

インフレ率の高い通貨は至る所で使われている。シンプルなモデルで考えると、通貨を何かしらの理由で保有しなければならないなら(cash in advance constraintを想像してほしい)、インフレ率の低い通貨を持つ方が損が少ない。インフレはマイナスの金利と同じことだからだ。日本円とトルコリラのどちらかをしばらくポケットに入れておかなければならないなら、日本円で保有しておく方が(おそらく)損が小さいから、日本円をポケットに入れておきたいものである。

とはいえ、例えば、メキシコでは、米ドルでもペソでも多くの場合買い物ができるにもかかわらず、ドルがペソを駆逐する気配はない。非常にルーズな言い方をすると一見良貨にみえる通貨が一見したところでは悪貨な通貨を駆逐しないのである。

なんでだろう。

伝統的な説明は、上の例で言えば、ペソでしか支払えないものがあるというものだ。典型的な例は税だ。税金はペソで収めなければならないから、いくらかはペソを持つしかないのである。そうだとすると、メキシコは、ペソを放棄してドルを使うことにすればwelfareが改善するかもしれない。ペソでの納税を強要することによって、メキシコ政府は国民に害を及ぼしているのである。

Marianna Rojas Breu (2009)は、この伝統的な説明に代わる説明を提案している。キーとなるメカニズムは、債権者からすると、インフレ率の高い通貨の方が、融資が焦げ付いたり延滞された時の損が小さいというものである。メキシコで友達にお金を貸すとしよう。ペソでもドルでも貸すことができるものとする。ペソで貸した場合、借金が返ってこなかったり延滞されたとしても、割引現在価値で見た場合、損が小さい。インフレによって借金の価値は見る見る小さくなるからだ。一方、ドルで貸したとすると、割引現在価値で見た場合、借金が帰ってこない場合の損が大きくなる。このような状況では、ペソ(インフレ率の高い通貨)が使われている経済の方が、金融セクターが活発になる可能性がある。借金が帰ってこないとしても損が小さいのであれば、金融機関はよりリスクの高い融資を積極的に行う可能性があるからだ。このメカニズムが正しいとすると、借金がきちんと返済されるシステムが整備されている国と、借金がぜんぜん帰ってこない国では、米ドルが使われるのが望ましい一方、借金が返ってきたり返ってこなかったりする国では、ペソが使われるのが望ましいという、面白いnon-linearityが得られる。さらに、もし、彼女が提案する理由でメキシコがペソを使い続けているとしたら、ペソをやめて米ドルを使うことにするとwelfareが悪化するという、伝統的な理論と逆のwelfare implicationも得られる。

メカニズムも得られるimplicationも面白いペーパーなのだが、問題は、この理論をサポートするempirical evidenceを得るのが難しい点だと思う。いろいろな通貨が自由にどれでも使えるけれども、インフレ率が高い通貨が継続的に使われている例は探すのが難しい気がする。実際、ペソを保有することを強制されない僕は、メキシコでは、基本的に米ドルしか使わなかった。唯一ペソを使ったのは、ペソしか受け付けない自動販売機と公共バスだけである。