A Cross-Country Comparison of Public Debt

日本の巨額の政府債務に問題はないという根拠の一つとしてよくあげられるのが、日本の政府債務は主に(直接あるいは間接的に)日本人によって保有されているから大丈夫だ、という議論である。では、他の国はどうなのか。常に気になっていたのだけれども、なかなか他の国について日本と比較可能な数字を構築するのは簡単ではなかったので、比較ができないでいたところ、ちょっと前のTime Magazineでちょうどそのような比較がなされていたので紹介しておく。1次ソースで確認することができないので(Time Magazineだし)、どこまで正しいかは保証はできかねるが、参考までということで。



ちょっと画像が小さいので以下に数字を整理する。ちなみにデフォルトリスクの度合いはMoody'sの格付け(2011年6月時点)に基づく。上から順にリスクが高い国である。

1. ギリシャ: 政府債務/GDP=137%、国外保有債務/政府債務=75%、国外保有債務/GDP=103%
2. アイルランド: 政府債務/GDP=113%、国外保有債務/政府債務=83%、国外保有債務/GDP=94%
3. ポルトガル: 政府債務/GDP=99%、国外保有債務/政府債務=80%、国外保有債務/GDP=79%
4. イタリア: 政府債務/GDP=133%、国外保有債務/政府債務=46%、国外保有債務/GDP=61%
5. スペイン: 政府債務/GDP=78%、国外保有債務/政府債務=39%、国外保有債務/GDP=30%
6. 日本: 政府債務/GDP=204%、国外保有債務/政府債務=7%、国外保有債務/GDP=14%
7. ドイツ: 政府債務/GDP=81%、国外保有債務/政府債務=60%、国外保有債務/GDP=49%
8. イギリス: 政府債務/GDP=89%、国外保有債務/政府債務=30%、国外保有債務/GDP=27%
9. フランス: 政府債務/GDP=97%、国外保有債務/政府債務=59%、国外保有債務/GDP=57%
10. アメリカ: 政府債務/GDP=99%、国外保有債務/政府債務=31%、国外保有債務/GDP=31%

やはり日本の比率が国外保有債務/政府債務、国外保有債務/GDPともに断然低い。

Estimating Fiscal Multiplier Using Micro Data

前回、財政乗数、特に不況期における財政乗数の推定、における問題点のひとつはデータ数が少ないことであり、その問題を乗り越える方法の一つの方法としてマイクロデータを積極的に使うことを挙げた。今回軽く取り上げる論文("Did the Stimulus Stimulate? Real Time Estimates of the Effects of the American Recovery and Reinvestment Act," James Feyrer and Bruce Sacerdote, NBER Working Paper No. 16579)はまさにその路線の論文である。この論文の売りは次の2つである。第1に、アメリカにおいてGreat Recession対策として実施された大規模な財政支出拡大(AARP)の効果を、州(state)および郡(county)レベルのデータを使って推定した。簡単に言えば、AARPの元でたくさんの金額をもらって支出した州や郡と、あまり多くの金額を支出していない州や郡との間で、GDPや就業者数がどのように違うかを見ることで、AARPの元での政府支出の効果を測っているのである。第2には、AARPの中でも、様々なタイプの支出があることに注目して、それぞれのタイプの支出の効果(Multiplier)がどのように異なるかを見た。

第1の結果についてもう少しだけ詳しく見ていこう。著者らは、まず、左辺に2009年2月から2010年10月における就業者数/人口比の変化分、右辺に人口一人当たりの財政支出拡大、人口、を置いて回帰分析を行った。その結果、一人当たり財政支出拡大が10万ドル増えると、就業者数/人口比が0.59だけ増加することがわかった。この結果をもう少しわかりやすい数字に置き換えると、就業者を一人増やすのにかかる金額は17万ドル、あるいは財政乗数1.06である。各州の毎月のAARPに基づく財政支出拡大と就業者数の変化を元に同じような推定を行った結果得られた数字は、一人当たり財政支出拡大が10万ドル増えると、就業者数/人口比が0.26だけ増加するというものであった。この数字を置き換えると、就業者を一人増やすのかかる金額は40万ドル、あるいは、財政乗数0.47である。これらの財政乗数(0.5~1.0)は現政権が財政支出拡大の効果を計算する際に使用した乗数(1.6)を大幅に下回るが、前回も触れたモデルベースの財政乗数の数字と整合的である。

財政支出拡大といっても、内容には様々なものが含まれる。異なる種類の財政支出拡大の景気刺激効果はどのように異なるであろうか。この質問に答えたのが、このペーパーの第2の結果である。著者らは、景気刺激策を3つのグループに分けて景気刺激効果を別々に計測した。1つ目のグループはいわゆる公共投資である。2つ目のグループは低所得家計支援のためのプログラムである。このカテゴリーの中で大きなものはフードスタンプ(低所得家計が受け取ることのできる、食料購入のためのバウチャー)である。3つ目は、教師や消防士の給与補填に使われる支出である。彼らの計算によると、第1のグループ(公共投資)と第2のグループ(低所得家計支援のための支出)の財政乗数は高いことがわかった。公共投資の財政乗数は1.9、低所得家計支援支出の財政乗数は2.0~2.3であった。その一方、教師や消防士の給与補填に使われる支出の財政乗数はマイナス(-0.7~-3.3)であった。但し、マイナスの乗数という数字は額面通りに受け取ってはいけない。なぜなら、この乗数は就業者数の変化を元に計算されているからだ。マイナスの乗数は、教師や消防士の給与に使われる支出が多い場合、雇用の増加には役に立たない(それどころか、マイナスの影響がある)という結果から来ている。

著者らも認めているとおり、まだまだラフな計算にとどまっているが、効果的な景気刺激のためには、総額だけでなくどのような種類の財政支出拡大を行うかについて注意を払わなければならないというメッセージは重要だと思う。