Bullard on Policy and Academics

こんなことを数ヶ月ごとに書いているけれども、またまた空いてしまった。自分の仕事のみに時間を費やしているのはいいのだが、仕掛かり中のペーパーに関連する以外のものも意識して読むようにしないと、どんどんversatilityが失われ、かつ経済学の様々な分野で起こっている面白い動きについていけなくなるので、大作はそうそう書けないにしても、メモ程度のものをできるだけ残していきたい。

といいつつも、今回は論文のレビューではないのだけれど、St. Louis FedのJames Bullard総裁が、SEDのニュースレターのインタビューに登場して面白いことをしゃべっているので、その中からいくつか抜粋してメモしておく。オリジナルはここにある。あくまで意訳なので注意してほしい。
  1.  アカデミアにいる経済学者と政策に携わる経済学者の交流が盛んでないことに不満を感じている。火星に人を送るという目的を達するためには、最高のエンジニアが必要なのと同じように、よりよい政策の実施には最高の経済学者が必要だ。
  2. 最新の最も優れたアイデアが一流の経済学雑誌に掲載されているはずなのだから、 そのようなアイデアを無視するべきではない。それら精通していない人は政策の決定に携わるべきではない。
  3.  頭のよいたくさんの経済学者が考え抜いた結果が数行のtweetとかで要約できるなんて考えはばかげている。政策に関する問題の答えは複雑なのに、多くの人々は簡単だと思い込んでいる。自分がやれば癌の治療方なんてたやすく発見できると考えているというのと同じだ。
  4. 経済学の過去30年の動きは、 Lucas-Prescott-Sargentおよび彼らの共著者、弟子たちの研究がそのほかの研究より圧倒的に優れていることを示した。このような動きが気に入らない人が多いこともわかるし、金融危機をきっかけにこのような人々が復活しつつあることもわかる。但し、経済の複雑な問題に対処することを可能にしたLucas-Prescott-Sargentらの研究プログラムに対抗することはできない。
  5. 経済学が批判されやすい理由は、誰もが経済の中に住んでいて、経済活動に携わっていることから、誰もが経済についてよくわかっていると思いがちなことによると思う。このことは経済学だけではない。Steve Jobsは晩年、自分の体について同じように考えていたと聞く。しかし、このような傾向は経済学においてより顕著だ。
  6. 多くの人々は予測を重要と思いすぎていると思う。政策というのは現在の経済状態に関する反応関数だ。よい政策が実施できるならば、予測の正確さに関わらず、現在の経済状況を把握できれば、よい政策が実施できるものだ。モデルは予測のためにあるのではなく、ある政策を実施した際の影響をcouterfactualによって分析するためにある。FRBが重点を置いているのは、予測よりも、様々なノイズがある中で現在の経済状況をできるだけ正確に把握することである。
  7.  1990-2000年代にかけて、金融セクターの役割は活発に分析されてきた。金融危機に対処する際はこれらの知識が役立った。人によっては、1990年代に、成長論よりも金融セクターの分析により焦点を当てるべきだったという意見もあるけれども、最終的に長期的な厚生の向上に大事なのは経済成長だ。
  8.  Structural modelとStatistical modelの間にトレードオフは存在しない。政策の効果を分析する目的のStructural modelの代わりはないからだ。Statistical methodはDSGEモデルの推定といった面でStrutural modelの発展に貢献している。
  9. それぞれの研究者が一人でできることには限度がある。ひとつのペーパーでは、経済問題のある一側面についてちょっとした分析ができるだけだ。個人的には、DSGEモデルをベースに、つまりmicrofoundedなモデルをベースに、経済学者の力を結集して、様々な効果を内包した大きなモデルを構築することを考えるべきだと思う。大きなモデルを作るという試みは1970年代に一度失敗したのでこういう動きは起こりにくくなっているのだと思うが、一度失敗したから二度目も失敗すると理由はない。
  10. Benhabib, Stephanie Schmitt-Grohe and Martin Uribeによる、複数均衡のモデルはとても画期的だと思う。アメリカが日本のようにならないためにも、彼らのアイデアがほかのモデルでも使われるべきだ。
  11. 彼らのアイデアが使われない理由のひとつは、DSGEモデルがローカルな近似を使っているからだと思う。彼らのアイデアはグローバルな 均衡の話なので、ローカルな近似を使っている以上、取り込みようがない。厚生という面では、ローカルな景気循環より、彼らが注目しているようなグローバルな均衡の移動の方がずっと大切かもしれない。個人的には、彼らのいう「悪い均衡」に陥らないような政策を実施することはとても重要だと思う。
  12. Ravenna and Walshによる、NK-DSGEモデルに労働市場の摩擦を導入することで、失業を分析できるようにするという試みに注目している。彼らの最近の研究によると、NKモデルに失業を取り込んだとしても、最適な金融政策はあまり失業にウェイトを置かず、価格の安定にウェイトを置いたものであることがわかった。これは直感と異なる。直感では、失業を考慮すれば金融政策は失業を減らすことにより注力すべきという結果になると思うのだけれども、そうはならなかったからである。