Neoclassical Models are (a Lot) More Versatile than You Think

これで2014年は最後のエントリだ。年が明けたらまた、面白かった論文の紹介という通常営業に戻ろうと思うが、その前にひとつ。

どうも、現代のマクロ経済学で使われるモデルについて様々な誤解があるように思う。タイトルではキャッチーにするため新古典派モデルとしたが、「新古典派」なんて言葉は、AKモデルではないという意味で「新古典派成長モデル」(Ramsey-Cass-Koopmansモデル)という言葉が使われる以外は、研究者の間ではほとんど使われないと思う。そういうわけで、これ以降は「現代のマクロ経済モデル」という言葉を使う。今回は、いろいろな誤解をとく手助けになるように、現在のマクロ経済モデルは、しばしば勘違いされているように幅の狭いモデルではないことを示したいと思う。これは、僕の個人的な認識なのだけれども、ちゃんとしたマクロ経済学の研究者では、大まかには同じような考えが共有されていると思う(願っている)。

1. 現在のマクロ経済学の基本モデル
モデルの基本要素は以下の3つだと思う。
(1) 無限期間(つまり動的=Dynamic)。
(2) 経済主体(消費者と企業)は目的関数の最大化を行う。目的関数は、消費者の場合は厚生(生涯にわたる効用の(discountされた)和)であり、企業の場合は企業価値(将来にわたる利益の和)。
(3) 経済は「均衡」上にある。

Dynamicsが必要とされるのは、今日消費を増やせば投資にまわせる額が減り、将来の消費が小さくなるというトレードオフが重要とみなされているからである。言い方を変えれば、マクロ経済の重要な要素である投資が意味を持つにはDynamicなモデルが必要だからだ。それに、債務がある場合、その債務を将来は返済したり借り替え続けたりしないといけないという考慮も自動的に発生する。70年代までのモデルにありがちだが、こういう要素が抜け落ちると、現在のGDPや消費を最大化したり、借りれるだけ借りるのが常に最適なモデルとなってしまう。

モデルにおける期間の長さは無限である必要はないが、無限だと数学的にちょっと簡単になるので無限期間がデフォルトで使われている。学部生に教える時には、無限期間で簡単にするための数学が使えないので3期間とかで教えていた。

目的関数の最大化が重要なのは、いわゆる「ルーカス批判」に対応するためである。例えば、所得税率が上がれば時間当たりの手取りの給料が落ちるので労働時間が下がるというような反応は、消費は常に所得の一定割合といったような70年代までのモデルでは考えることができなかった。それにDynamicsがあって、消費者が将来にわたる効用の和を最大化する場合、消費税増税の前に駆け込み消費が起こり、消費税増税後は消費が大幅に落ちる、更に、それにあわせて消費税が引き上げられる前後でGDPも大きく上下するといったことも、モデルで比較的容易に再現できる。70年代までのモデルではこういう動きは容易には再現できなかった。

ここで、一言書いておく。しばしば、現代のマクロ経済モデルでは、消費者がお金のことばかり考えている(それは現実とそぐわない)という批判が見られるが、消費者の効用は、(お金で直接的に買える)消費のみによって定義することもできるし、他人との比較(external habit)や、高いものに慣れたら安いものに容易に戻れないというような生活習慣(internal habit)というようなものも含んだモデルも用いられている。ステータスが効用を高めるという消費者のモデルを使っている人もいる。この点についてはまた後で述べる。

 経済が「均衡」にあるという要素も、しばしば誤解される。狭義では、何の摩擦もなく、すべての市場で需要と供給が一致するという状態を指すかもしれない。このような意味でしか理解しない人が、「現在のマクロ経済学では失業がない」といった間違った考え方を持ってしまっているのだと思う。現実はそうではなく、現在はもっと柔軟な「均衡」が用いられている。この点についても下で振り返る。

もうひとつ言っておきたいのは、 ここで描写したモデルというのは、ミクロ経済学のいわゆる一般均衡モデルというものだ。よく、いまや一般均衡モデルはマクロ経済学者にしか使われていない、といわれるが、まさにそのとおりだと思う。実際、コアコースの一般均衡理論はマクロ経済学者が教えているというケースもよくある。更に付け加えると、現在のマクロモデルというのは、基本的には、一般均衡モデルにいろいろ加えて、実際のマクロ経済に似ている形にしたもの、ということができる。何を加えるかは、何を分析したいかによるのだが、元のモデル(シンプルな動的な一般均衡モデル)が皆で共有されているので、あるものを加えたらどういうことが起こるかというのがわかりやすいという面があると思う。

2. RBC(Real Business Cycle)モデル
おそらくは、いわゆる「新古典派マクロ経済モデル」が誤解されている理由は、RBCしか知らない人が多いからであろう。RBCモデルが何であるかは詳しく立ち入らないが、基本的には、 現在のマクロ経済学の基本モデルで、次のような特徴を持ったモデルである。
(1) 代表的個人(representative agent)
(2) 完備市場
(3) 摩擦がない
(4) 景気循環はTFP(Total Factor Productivity、大まかに言うと生産性)のランダムな変動によって引き起こされる

このようなモデルでは、もちろん、銀行なんて存在しない(必要がない)し、貨幣の役割もないし、経済は最適な状況にあるので政府がやることはない。ただ、このモデルは、景気変動のうちどのくらいが生産性の変動によるものかを計測するために作られた特別な(シンプルな)もので、別に現在のマクロ経済モデルが皆このようなモデルであるわけではない。そもそもこのモデルが開発されたのは1980年ごろだ。このころは、このモデルが解けただけでもすごいことであった。ある経済学者がこのようなモデルをベンチマークとして使っていても、そのこと自体が、その経済学者はすべての財政・金融政策は無駄と考えていることを必ずしも意味しないと思う。

3. DSGE (Dynamics Stochastic General Equilibrium)モデル
1980年以降、RBCモデルのような、現代のマクロ経済学の基本モデルのうち最小限のモデルがいろいろな方向に発展させられて、いろいろなことが議論できるようになったのだが、それらのモデルを総称して(広義の)DSGEモデルと呼ぶ。一般的はRBCモデルに以下のような要素が加わる。
 (1) 様々な摩擦(→データとモデルを整合的にするのに役立つ)
 (2) 特に、名目的な摩擦(Nominal Friction)。入れ方としてはCalvo(企業はある確率でしか名目価格を変えることができない)とMenu Cost(名目価格を変えるには(メニューを書き換える)コストがかかり、そのコストは価格を大きく変えれば変えるほど大きくなる)。これらの摩擦が入ったモデルはNK (New-Keynesian) DSGEモデルと呼ばれる。このモデルの利点は、金融政策が実物経済に影響を持つようになるので、金融政策を議論することができるという点である。
(3) 景気循環は様々なショックによって引き起こされる。どのようなショックが景気変動を引き起こしているかは様々なモデルが入ったモデルを推定することで、データに語らせるのが普通である。

以下では、現在のマクロ経済学モデルに加えられてきたそのほかの要素について言及する。

4. Financial Frictions(金融市場の摩擦)
お金の貸し借りに摩擦がある場合、銀行の役割が生じてくる。特に、金融危機以降、マクロモデルに銀行やその他金融機関を入れたモデルが活発に開発されている。

それに、何らかの理由で企業に借り入れ制約があり、借りたい分だけ借りられないという要素が入ったマクロ経済モデルも多数存在する。このようなモデルでは、何らかの理由(例えば企業が保有する不動産などの資産の価値が下落したので、不動産の価値を担保にした借り入れがしにくくなる)で企業の借り入れが難しくなると、生産量が縮小し、景気に深刻な影響を及ぼしうる。前FRB議長のBernankeや清滝さんが有名なのは、この分野で金融危機が起こるずっと前から貢献してきたからだ。

5. Labor Market Frictions(労働市場の摩擦)
労働者が自分に合った職を探すのに時間がかかるので、職を探している間は失業者となっているという要素の入ったマクロ経済モデルも、1990年台以降活発に開発されてきている。基本となっているのは2010年にノーベル賞をとったDiamond, Mortensen, Pissaridesの3者が開発した労働市場の摩擦モデルであるが、1990年代以降、RBCモデル(あるいはDSGEモデル)に加えられ、今ではマクロ経済モデルで失業を議論する際に普通に使われている。

ここで一言付け加えておくと、労働市場に摩擦があって、働きたいけど働けない労働者が存在するような「均衡」も普通に使われているということだ。ある意味「均衡」という言葉の濫用と考える人もいるかもしれない。

それ以外にも、最近のエントリで扱ったが、賃金に下方硬直性があるので、賃金を下げれば完全雇用が達成できても、均衡では失業が生じるというモデルも使われる。

6. Behavioral Assumptions(行動経済学的な仮定)
現代のマクロ経済学は行動経済学的な要素を簡単に取り入れることができる、柔軟なフレームワークである。例えば、よく使われるPresent Bias(現在の消費を魅力的に感じすぎてしまい、消費しすぎる)といった仮定も、基本モデルにおける消費者の目的関数を変更するだけで取り入れることができる。最近は、投資家が強気すぎる予想の元に投資決定をしたり、住宅価格が過去と同じペースで上がり続けると錯覚したりすることも、現在のマクロ経済モデルの中で分析されている。こういう意味で、「新古典派経済学か行動経済学か」といった二元論は間違っていると思う。

7. Heterogeneous Agents(異質性)
一般的なDSGEモデルで使われる代表的個人の仮定の下では、所得の不平等や、所得再分配政策、年金政策、世代間再分配をモデルの枠内で議論することができない。このような問題を超えるために、年齢や所得といった面で異なるたくさんの消費者が存在するモデルも1990年台より活発に開発されてきている。消費者の側の異質性だけでなく、企業の側の異質性を導入したモデルも最近発達してきている。

現在のマクロ経済学の面白いところは、「ゲームのルール」が共有されており、その中で競争が行われていることだと思う。基本モデルは共有されている。そのメリットは、大体において、ある拡張を行った場合、モデルの挙動がどのように変わるかはある程度感覚的にわかることが多いことである(もちろん驚くべき変化が生じればすばらしい)。基本的なモデルが拡張された場合、モデルの成功はデータとの整合性(の改善)によって測られる。同じような改善を示すモデルが複数ある場合、モデルによってインプリケーションが異なる他のデータを見てモデルの優劣が決められる。モデルがある程度データと整合的で「使える」と判断されれば、モデルの政策的インプリケーションが分析される。「最適な政策」は、通常、消費者の目的関数を最大化するものと考える。政策的なインプリケーションは、モデルをちょっと変えたとき、あるいはパラメータの値が変わった時も同じものが得られるか(頑健か)がチェックされる。

前回のエントリで、モデルの重要性を叫びすぎだと受け取られたかもしれないが、このようなルールに則ってもらわないと、皆で協力して日本経済についての理解を深め、政策をよりよいものにしていくというプロセスに貢献しないと思ったからだ。

いつにも増して推敲に時間を割いていないので、後でちょっとづつ書き直すことになると思うがお許し願いたい。では、よいお年を。どこまで続くかわからないが、来年もとりあえず続けてみようと思う。

Reflationists or Just Plain Doves?

個人的には日本のマクロ経済政策に関する議論はとても理解しにくいと感じている。傍観者からは、(もちろん例外もたくさんいるけど)大まかに言って次の3者が対立しているように見える。

1. 最近のマクロ経済学のトレーニングを受けた経済学者。主にHawk(タカ派)。
2. 昔ながらのマクロ経済学を基に議論している経済学者。Dove(ハト派)もHawkもいるように感じる。
3. ちゃんとしたマクロ経済学のトレーニングを積んでいない人達。基本的にDove。いわゆるリフレ派という人達はここ。

それぞれのグループが異なるアプローチを元に議論しているので、議論を成立させるのすら難しいと感じられる。アメリカではブロガーはいろいろな人がいるけれども(ブロガーなんてのは政策に影響を与えるわけではないのでどんなアプローチだろうが害はない)、政策に関わる人達は最近のマクロ経済学のトレーニングを受けた人たちが中心なので、共有された基本モデルとアプローチの元で、議論がしやすくなっている。言い方を変えると、ちゃんとした最近のマクロ経済学のトレーニングを積んだグループにDoveがあまりいないように感じられる、あるいは、2のグループの人たちが最近の経済学の動きに(意識的に)ついていっていないのが日本の問題なのかなぁと感じられる。

何でこんなことからはじめたかというと、いわゆるリフレ派という人達の書いたものは、基本的に注意を払っていないからだ。とはいえ、日本の経済政策に影響力があるようだし、ホリデーシーズンで自分の仕事以外のものにも目を向ける余裕がちょっとあるので、矢野さんという方の、「なぜリフレ派は消費増税に反対なのか」という小文を読んでみた。

自ら応用統計学者と名乗る人(なのでどの程度ちゃんとしたマクロ経済学のトレーニングを積んだのかもよくわからない)の文章に突っ込みを入れるのも無粋なのかもしれないけれども、いい機会なので、よくわからないなぁと思うことをつらつらと書いてみる。コメントとして書いているのは、この小文に対してだけではなく、リフレ派という人達の主張一般についても含む。形式はレフェリーレポートのようにしてみよう。レフェリーとはしばしばそういうものだが、日本の状況に詳しいわけでも、金融政策の専門家なわけでもなく、印象を述べているだけなので、間違い等があったら指摘してもらえるとうれしい。

1. Summary
  1.  ゼロ金利制約(中央銀行が経済に影響を与えるために操作する、いわゆる「名目政策金利」がゼロなので(あるいはゼロに近いので)名目政策金利を引き下げて経済を刺激しようにもそれができない状態)の元では、伝統的な金融拡張(名目政策金利の引き下げ)による経済の刺激ができない。
  2. このような状況下では、将来に予想されるインフレ率を引き上げることで実質政策金利(=名目政策金利ー将来に予想されるインフレ率)を引き下げることができる。最近日銀が実施しているのはこの政策である。
  3.  経済がゼロ金利制約に直面している状況では、ある一定幅の消費税増税等がGDPに与える負の効果は、ゼロ金利制約に直面していない状況に比べて大きくなる。
  4. よって、消費税増税は、経済がゼロ金利制約に直面している現在実施すべきではない。
  5. 消費税は、逆進性が強いので、所得の低い人の可処分所得がより強く影響を受ける。このことも消費税増税が好ましくない理由である。
2. Major Comments
  1. そもそも、経済学者が最大化したいのは、人々の幸福度(社会的な厚生とも呼ぶ)である。なのにインフレ率の引き上げにこだわる理由がわからない。期待インフレ率の上昇によって実質金利が低下し、実体経済が刺激される(よって、社会厚生が改善する)チャンネルは理論的にありうるが、ゼロ金利制約下で拡張的な金融政策が実体経済を刺激するチャンネルは他にも考えられる。いわゆるQE(量的緩和、政策金利がゼロであることは気にせず、金利がまだゼロにいっていない様々な資産を購入することで、それらの金利を下げて経済を刺激しようとする政策)の下では、実質長期金利の低下、円安、リスク資産の実質金利の低下によっても理論上は実体経済は刺激できる。このような状況下、インフレ率引き上げを通じたチャンネルに特に注目する理由がわからない。
  2.  もし、拡張的な金融政策を通じて経済にプラスの影響を与えようというのが基本的な考え方なら、インフレに執着しなくてもよい。金融政策重視のDove(ハト派)と改名したらどうか。
  3. 但し、このグループは、財政政策にも一家言あるようだ。いっそのこと、日本でしか通用しない変な言葉を使うのはやめて、一律Dove((財政も金融も含む)ハト派)とすればいいのではないか。この方が国際的にわかりやすいし、対外的に説明するのが恥ずかしくない。
  4. 逆に、インフレを引き起こすことで経済を刺激するのが一番の目標であれば、財政政策がどうであろうが、金融緩和を実施すればいいだけだ。あるいは、緊縮財政を打ち消すだけのさらに大掛かりな金融政策を提案したほうが「リフレ派」の名にふさわしいのではないか?
  5.  中央銀行の独立性が重要である点について言及されているが、政府の意向に沿うような大幅な金融拡張を好む総裁を据えるというのは、中央銀行の独立性というトレンドとはまったく反対にあると思う。今はその悪影響が出てきていないが、こんなことしてて将来的に大丈夫かと不安だ。
  6. そもそも、最近の日銀の政策は、実体経済に対してどの位影響があったのか?そしてそれはどのようなチャンネルを経ているのか?そういうことを分析した研究をもっと紹介して欲しい。将来の期待インフレ率が動いたのか、ゼロ金利制約に引っかかっていない金利が下がったのか、為替の影響が大きかったのか?例えばEconomistなどは、最近は、為替切り下げの影響が大きかったという前提で記事を書いているように見える。
  7. 矢野さんの分析は、現在のGDPにしか焦点が当たっていない。現在のことしか考えなくてよいならば、消費税率をゼロ(あるいはマイナス)にして、むちゃくちゃに金融緩和して現在のGDPを引き上げればよい(実際上がるかは別問題)。このような政策が実施されないのは、消費税引き下げ(引き上げの延期)や金融緩和は(長期的で見えにくいかもしれないが)マイナスの効果もあるからである。そのようなことを考慮に入れない、トレードオフのない、いい加減な「モデル」を示して取るべき政策を議論されても困る。どんな政策にも短期的な見えやすい効果と、長期的な見えにくい効果のトレードオフがあってそのバランスを取るように政策を決めなければならないというのが、現在のマクロ経済学(というかApplied Microとなったマクロ経済学)の最も重要な視点の一つだと思うのだが。
  8. それに、GDPだけ見ればいいというものではない。現在の日本の状況が一時的ではく構造的なものであれば、金融緩和でちょっと経済を刺激したところで、経済の効率が低下して長期的には結局はマイナスの影響が強いことも考えられる。
  9. いわゆる消費税の逆進性に言及して、消費税の増税は総消費を減少させる(から望ましくない)と議論しているが、様々な視点が抜けていると思う。例えば、消費税には税収が安定するという利点や、効率性のロスが小さいという利点があり、長期的には望ましいという議論がある。普通のモデルを使うと、短期的な景気のコントロールから生じる厚生の上下は、長期的な効率性の改善から得られる厚生の改善に比べて非常に小さい。
  10. それに政府支出には頼るけど税金は支払いたくないというおめでたい国民性なので税率は上げれるときに上げないと、将来の借り入れコストが上がり、もしかしたら将来デフォルトに追い込まれるかもしれないというリスクが上がるかもしれない。
  11. また、消費税を上げないことで経済に勢いがつくというようなモデルを想定しているように感じられる(そうでなければなぜ消費税引き上げのタイミングがそれほど重要なのかわからない)が、どんなモデルなのか。どの位そのモデルは信用できるのか。 
  12. 理論的には、ゼロ金利制約がある状況のほうが財政緊縮がGDPに与える影響が大きいというのはわかるが、この結果はどこまで頑健なのか?この理論はデータでも支持されているものなのか?個人的には理論的にそうはならないモデルも作れる気がする。もしデータで支持されていないのであれば、そのような理論を元に消費税増税に反対するのは無理があるのでは。一般的にいえば、あまり信頼が置けないモデルで強い政策論を展開するのは不用意なのでは。
3. Minor Comments
  1. レトリックが多すぎる気がする。きちんとした経済学の書き物であれば、経済学らしく(少なくとも形式的には)科学的な書き方をしたほうが良いのでは。
  2. なぜわけのわからない被害者意識が強いのだろう?日本の最近の経済政策はいわゆるリフレ派というグループが推進する政策にとても近いので、被害者意識を持つ理由がわからない。
  3. 理論を提示しているのだから、わけのわからない書き物だけでなく、理論の元になっている論文や、理論のデータとの整合性などを論じた論文を参考文献に載せて欲しい。
もしかしたらちょっと刺激的過ぎるかもしれない。クリスマスだということ調子に乗ってみた。すぐに消してしまうかもしれない。

A Model of the Twin Ds

今回は、簡単に、Na, Schmitt-Grohe, Uribe, and Yueによる"A Model of the Twin Ds: Optimal Default and Devaluation"を紹介する。

著者らは、多くの国に起こった政府債務のデフォルトにおいて、デフォルトの直後にその国の通貨が大幅に切り下げられたことをに注目した。(最近悪名高くなってしまったが…)Reinhartはこのような現象をTwin D(DefaultのDとDevaluationのD)と呼んでいる。但し、著者らが言うように、デフォルトの「前」に通貨が大幅に切り下げられた例も多数あるが、そのような状況は今回のペーパーで分析できない。デフォルトの直後に通貨が切り下げられた例として、以下の6カ国があげられている。
ではなぜデフォルトと通貨切り下げはリンクしているのか?この質問に答えるには、デフォルトと為替レートの入ったモデルを構築する必要があるが、そういったモデルは存在していなかった。このペーパーでは、そういうモデルを作り、そのモデルにおいては、デフォルトの後に通貨を切り下げることは最適な政策であることを示す。

彼らのモデルの基本的な構造を簡単に説明してみよう。ベースとなっているのは小国開放経済DSGEモデルである。国の経済は貿易財(tradable)セクターと非貿易財(nontradable)セクターから構成されている。貿易財セクターの生産は生産性ショックによって決まる。良い生産性ショックが実現すれば貿易財の生産量は高くなり、悪い生産性ショックが実現すれば貿易財の生産量は低くなる。貿易財の生産が低いときには国は外国から借り入れを行う。借り入れはドル(国際通貨と考えればよい)で行われる。国は債務の返済にコミットできない(コミットメントの欠如)と仮定されており、また、将来の生産性ショックに応じて返済額を変更することはできないと仮定されている(不完備市場)。この仮定は、Eaton-Gersovitz(REStud1981)およびArellano(AER2008)で構築されたソブリンデフォルトモデルと同じ構造である。デフォルトすると中間財の輸入がうまくできなくなったりする(このようなデフォルトのコストは明示的にモデル化されていない)ことによって、生産量が低下すると仮定されている。このような仮定の下では、国は生産性ショックが低い状態が続いて、債務を蓄積しすぎた場合、デフォルトするコストが返済のコストより小さくなり、最適な政策としてデフォルトを選択することとなる。彼らのペーパーでは、デフォルトすると国際金融市場からの借り入れは未来永劫できないと仮定されているが、数年後には再び借り入れできるようになるという仮定を入れてもモデルの挙動は同じようなものである(もちろんカリブレーションは変わってくる)。

ここまではArellanoのモデルと同じであるが、このペーパーで新しいのは、非貿易財があることである。非貿易財への需要は貿易財への需要が高まると高まると仮定されている。また、非貿易財の生産は労働の投入によって行われるが、労働者に支払われる名目賃金には硬直性があり、名目賃金の調整はゆっくりしか行われないと仮定されている。

このような状況下で、国がデフォルトすることになったとしよう。デフォルトすると、貿易財の生産性及び生産が低下する。貿易財の消費が減少すると消費者は非貿易財の消費も減らそうとする。非貿易財の需要が減少するのに応じて、企業は非貿易財の生産を縮小したいのだが、名目賃金が硬直的な場合、賃金が調整できないので、企業は労働者を解雇せざるをえず、失業が生じることになる。

ここで政府に何ができるかというと、為替を切り下げることで、ドルベースの(実質)賃金を引き下げることができるのである。 名目賃金は硬直性があってすぐに最適な反応ができないかわりに、為替を切り下げることで名目賃金の硬直性を乗り越えることができるのである。為替を切り下げることで実質賃金が下がり、失業が解消されることになる。つまり、彼らのモデルでは、デフォルトした直後は、為替を切り下げて実質賃金を引き下げるのが最適な政策として考えられるのである。

では、ユーロ圏について考えてみよう。ユーロ圏の国のデフォルトリスクが高まったときには、ユーロ圏の国は通貨切り下げができないということが懸念されていた。そのときには、為替を切り下げて実質賃金を下げ、貿易収支を改善することができないという点が問題視されていた。彼らのモデルでは貿易財の生産が直接的に賃金に影響を受けないので、このような懸念は分析できないものの、彼らのモデルでも、ユーロ圏のように為替がペッグされていることは効率性という点から問題が生じる。為替がペッグされていると、ある国がデフォルトした後に、実質賃金引下げを行うことができないからである。彼らのモデルでは、為替ペッグの代償は大きい。ある国がデフォルトして、為替がペッグされている場合、失業率は大幅に高まることになる。

既存のモデルを、わかりやすい形で拡張し、現実的でかつ面白い政策インプリケーションが得られるという、良い論文のお手本だと思う。

Christmas Macro Meeting

今年の12月26日に東京でマクロ経済学学会が開かれるようだ。年末年始に海外から日本に帰ってきている人が集まって、日本のマクロ経済学者とともに、研究を発表しあうというものだ。ブラウンさんが旗振り役となっている。モデルとなっているのは、ドイツ人のマクロ経済学者の通称クリスマス学会というものだ。ドイツの場合、クリスマスの時期にドイツのどこかに集まって交流するというだけでなく、時にはアメリカで、ドイツの機関と例えばどこかの地区連銀との共催で学会を開いて、ドイツの経済学者がアメリカの人たちと交流する機会を作っている。基本的には別の用事で帰ってきている人たちで集まるというのが趣旨なので、旅費を払う必要がなく、安上がりで海外の人をたくさん集められるというのがウリだ。今回はキャノングローバル戦略研究所が場所を提供するみたいだけど、今後もっといろいろな大学が手を挙げてくれて、盛り上がってくれればと思う。

AEAとかを見ても、日本でいう日本経済学会のような機関がレセプションを開いて、その国出身の人たちが集まれる場所を提供している国もあったように思う(そのひとつは中国だったような気がする。中国はたくさんの大学がレセプションを開いていた)。日本の経済学者はそれぞれが一匹狼のようで、それはそれでいいところもたくさんあるんだけど、こういう機会がもっとあったらうれしい人も多いだろうなという気がする。