(Pleasantly) Lost in Finance Conference, Part II

柄でもなくFinanceの学会に出て聞いたペーパーの続き。既に忘れてしまったので単なるAbstractの日本語訳のようになってしまったがが、まぁ備忘録なので。

The Costs and Benefits of Financial Advice, by Foerster, Linnainmaa, Melzer, and Previteroは、カナダのデータを使って、Financial Advisor(FA)を雇うことにメリットはあるのかという質問に答えた。主要な結果は以下のとおり。
  1. FAに支払う料金を考慮に入れると、FAを雇っている投資家のリターンは、passive benchmark(S&P500に投資したまま放っておくようなものと考えて欲しい)に比べて2.5%低かった。つまり、FAはリターンを高めるという目的には、役に立たない。
  2. FAに払う料金は投資家の投資に関する知識とは相関していない。つまり、金融に関する知識に乏しい投資家が、知識を補完するためにより高い料金を払っているわけではない。
  3. FAを雇っている投資家は、貯蓄、ポートフォリオ、売買の頻度等の面で、FAを雇っていない投資家と異なっていた。このことは、投資家は投資のリターンを高めるという目的以外のためにFAを雇っていることを示唆している。
このペーパーに対してコメンテーターが、「FAが役に立たないってのは皆知ってるよな。俺なんて親戚に投資に関するアドバイスを求められたらまずはFAを首にしてインデックスファンドを買っておけという。」といい、皆が爆笑していた。

What Drives Financial Complexity? A Look into the Retail Market for Structured Products, by Celerier, and Valleeは、最近個人投資家で買う人が増えているStructured Productが何の役に立っているのかを分析した。彼らは、ヨーロッパに流通する55,000のStructured Productsの複雑さ(complexity)を、それらの商品の説明が何単語で行われているか(それに、言葉の難しさでウェイト付けした)によって数値化し、どのような金融機関がどの位複雑なStructured Productsを取り扱っているかを分析した。彼らの主要な結果は以下のとおり。
  1. 流通する商品の複雑さは2002年以降年々上昇している。
  2. 金融知識に乏しい顧客が多い金融機関ほど複雑な商品を取り扱いがち。
  3. Structured productsのマークアップは複雑さが高いほど高い傾向にある。
  4. 金融機関同士の競争が激化すると複雑さは上昇しがちである。
つまり、金融機関は、複雑な金融商品が理解できない顧客に特に役に立たない複雑な金融商品を売って利益を得ているというのがメッセージのようだ。

Household Portfolio Choice and Retirement, by Jawad Addoumは、アメリカの家計が退職に伴い投資のポートフォリオをどのように変えるかを分析した。主要な結果は以下のとおり。
  1. カップルの株式に投資される割合は退職にともなって低下するが、シングルの場合、株式に投資される割合は退職時に変化しない。
  2. 妻のリスク回避度が夫に比べ大きい家計ほど、退職の際に株式への投資割合が低下する幅が大きい。
  3. 夫の退職の際には株式に投資される割合は下がるが、妻の退職の際には株式へ投資される割合は上昇する傾向がある。
  4. これらの結果は、カップルの投資決定は、異なるリスク回避度を持ったパートナーの間で決定され、特にまだ働いているパートナーの選好が大きく反映されるモデルを支持している。

Corporate Scandals and Household Stock Market Participation, by Giannetti, and Wangは、ある企業の不正の発覚が株式市場にどのような影響を与えるかを分析した。彼らの主要な結果は以下のとおり。
  1. 不正が発覚した企業の本社が存在する州では、株式を保有する家計(extensive margin)、株式の保有量(intensive margin)の両方が減少する。
  2. 不正が発覚した州においては、その不正に関連する企業の株を保有していない家計も株式の保有を減少させる。つまり、不正は株式市場への全般的な「不信」を生み出すことになる。
  3. その結果、不正に関わっていなくても、不正が発覚した企業と同じ州に本社がある企業の株価および株式保有者の数は減少してしまう。

どのペーパーも、「Behavioral」な雰囲気が漂っているなぁという印象を受けた。

(Pleasantly) Lost in Finance Conference, Part I

またしてもあけてしまったが、まぁ、気を取り直して。仕事柄たくさんの学会に出るのだけれども、主にマクロかなんでもあり(その場合マクロのセッ ションをうろつくことになる)の学会に出ることが多い。だけれども、最近、ファイナンスの学会に呼ばれて発表してきた。僕のペーパー以外は、いわゆる 「experimental」あるいは「behavioral」な要素が感じられる、いかにも最近のファイナンスという感じで新鮮だったので、ちょっとメ モしておく。今日は最も面白かったペーパーひとつについて書いて、明日、残りのペーパーに言及する予定。

一番面白く て、かつ皆がこのペーパーは影響力の大きいものになるといってたのがUnderstanding Mechanisms Underlying Peer Effects: Evidence from a Field Experiment on Financial Decisions, by Bursztyn, Edeer, Ferman, and Yuchtmanである。このペーパーのmotivationはこのようなものだ。ある人がある金融商品を持っていると、その人の知り合いも同じ金融商品 を持っている可能性が高い。このことはpeer effectと呼ばれる。それはなぜだろう?2つの可能性がある。1つは、人は自分の友人が持っているという事実からなんらかの情報を引き出して、それを 元に自分も購入を決定するというものである(learning)。もう1つの可能性は、友人がある金融商品を持っていると、それと同じものを持つことで、 友人と同じ地位にいると感じられるなどといった幸福を感じるというものである(keeping up with the Jonesesあるいはexternalityと解釈できる)。この二つは識別が難しいけれども、どのように金融商品を売るか、あるいはどのように規制す べきか、という質問の答えは、どちらがpeer effectを生み出しているかによってぜんぜん異なってくるかもしれないので、どちらがpeer effectを生み出しているかを知ることは重要であろう。

この識別問題を解決するために、著者らは、ブラジルの金 融機関と協力して、大規模な実験を行った。このメインの実験は以下のように行われた。まずは、その金融機関の顧客リストの中から、個人的に交友関係がある ペアをたくさん抽出する。そして、ペアのうち一人(Aさんと呼ぶ)に電話して、ある金融商品を紹介し、その商品を買いたいか聞く。その商品は1000ドル 程度の投資を必要とする。但し、Aさんが欲しいといっても、Aさんはある一定の確率でしか買うことはできない。Aさんの答えを受け、実際にAさんがその商 品を買えるか否かが決まったら、ペアのもう片方(Bさん)にすぐ電話する(すぐに電話しないとAさんから話が行ってしまう可能性があるので)。Bさんに対 しては、以下の3つのうちのどれかひとつの対応をする。

(1) Aさんの答えそしてAさんが実際にその商品を購入できたかを知らせず、同じ金融商品の説明をして、Bさんが買いたいかを聞く。
(2) Aさんは購入したかったけれどもくじ引きの結果購入できなかったことを知らせた上で、同じ金融商品に興味があるかをBさんに聞く。
(3) Aさんが購入の意思を示し、実際に購入したことを知らせた上で 、同じ金融商品に興味があるかをBさんに聞く。

 こ の結果、Bさんのうち購入の意思を示した人の割合は、(1)のケースでは42%、(2)のケースでは71%、(3)のケースでは93%だった。(1)と (2)の差は、情報(learning)の効果、(2)と(3)の差は、友人の同じものを持ちたいという要求(keeping up with the Joneses)の結果と解釈できる。つまり、著者らの実験によると、peer effectはlearningとkeeping up with the Jonesesの両方が影響しているということがわかった。

 こんな大規模な実験をできてしまうのはすごい と素直に驚いた。実験というと、せいぜい10ドルくらいのペイオフでボランティアの学生相手とかにやったものをよく聞くが、あんなものからシリアスな状況 における意思決定について学ぶものは少ないといつも思っていた。1000ドルの(これもたいした額ではないけれども)投資とか、実際の金融機関と連携とか 聞くと、真剣に聞く気になってくる。実験もこういうものが増えてきているのであろうか。