Example of Why You Should Not Trust Evidence-Based Policy

最近は「エビデンス」を基に政策を決めていこうという話がよく出ているが、「エビデンス」を見るたびに、ほんとかなと思って、「エビデンス」のもとになっている論文をチェックしてみると、眉唾なことが多い。それらを全て列挙するのは大変なので、代表的なものをひとつ挙げておこうと思う。他の「エビデンス」もこんな風に突っ込みどころはいろいろある。

受動喫煙を禁止しようという動きの根拠のひとつとなっているのは、受動喫煙が大きな害を生じさせるという「エビデンス」である。最近は赤ちゃんのいる家庭では喫煙を禁止させようという、こんなことどうやって実施するんだというような政策も議論されているようだ。

その中のひとつの「エビデンス」として、受動喫煙をしている赤ちゃんは乳幼児突然死症候群(Sudden infant death syndrome、SIDS(シッズ))にかかる確率が4.7倍になるというものがある。Wikipediaによると、SIDSというのは「何の予兆もないままに、主に1歳未満の健康にみえた乳児に、突然死をもたらす疾患」一般を指すらしい。もちろん、1歳未満の赤ちゃんが突然なくなるというのはとても悲しい話であり、なるべく防ぎたいということについてが多分議論の余地はないだろう。では、この、4.7倍というとても大きな数字はどこから来ているのか?

「4.7倍」の根拠となっている論文は厚生省心身障害研究という、僕にはぜんぜんわからない雑誌に1997年に掲載された、「乳幼児突然死症候群の育児環境因子に関する研究ー保健婦による聞き取り調査結果ー」という論文である。まず、いちゃもんをつけさせてもらうと、喫煙に反対している厚生省が出している雑誌なので利益相反の疑いがあることと、そもそもちゃんと専門家にレビューされているのかよくわからない論文である。政府の債務が大きくなりすぎると経済に悪影響を与えるので増税しましょうという論文が、ぜんぜんちゃんとしたレビューもされず、財務省の雑誌に書かれている様なものである。それを元に増税するのはまずくないか?

では、この論文で何をやったかというと、SIDSで子供を失った両親に聞き取り調査を行い、SIDSに関連のありそうな行動(喫煙やうつ伏せで寝かせていたか等)をとっていたかを記録する。一方、コントロールグループとして、SIDSで亡くなった子供に年齢・地域等の面でマッチした子供を選び、その子達の親にも同様のインタビューをする。それで、この2グループの親の行動にどのような行動の差があるかをもって親のいろいろな行動とSIDSとの相関を分析している。いわゆるケースコントロール(症例対象)研究という手法である。以下に、この2グループの特徴のサマリーの、喫煙に関する部分をコピーする。
この研究で使われた、SIDSで亡くなった子供の数は377人である。そのうち両親ともに喫煙者である割合はSIDSで子供が亡くなった両親の場合は23%(86人)、そうでない両親の場合は8%(30人)である。この差は大きいので、おそらくは、両親が喫煙者であった場合に子供がSIDSにかかる確率は高く出るだろうなと思うだろうが、その通りで、よくマスコミなどで見られる4.7倍というのはこの差を元に計算されている。但し、他にも注目して欲しいのは、片方の親だけが喫煙者である場合の差はそれほど大きくない。SIDSで亡くなった子供がいた家庭で、片方の親だけが喫煙者であった割合は52%であり、そうでない家庭の場合はその割合は58%であった。結局、両親のいずれかあるいは両方が喫煙者であるというように条件を緩和すると、SIDSにかかる確率は1.6倍に大きく下がることになった。

この調査は1997年なので喫煙者が多いが、それでも両方とも喫煙者の家庭の割合は低い(上の表によると両親とも喫煙者の家庭は8%のみの一方、片方だけ吸っている家庭の割合は58%だ)。このことだけ考えても、1.6倍ではなく4.7倍という数字を使うのは誠実ではないと言える。更に、以下のグラフ(データの出典はJT。グラフはここからコピーさせてもらった)に見られるとおり1997年以降、喫煙者は大きく下がってきている。
このことを考えると、両親とも喫煙者というケースはかなり減ってきているのではないか。こういう状況で、1.6倍ではなくて4.7倍を使うのは誠実な態度とは思えない。

しかも、喫煙とSIDSの関係という意味では、ここで取り上げた分析は基本的に何もコントロールせず相関を出しているだけである。この研究では、うつぶせに寝かさせていた子供や、母乳ではなくて人口栄養を与えられていた子供がSIDSにかかる確率も高く出ているが、それらを同時にコントロールしたりももちろんしていない。それに、マッチング(SIDSで亡くなった子供と似た子供の選び方)もかなりいい加減だと思う。年齢と住んでいるところしかマッチングしていないが、おそらくは、SIDSで亡くなった子供の親の学歴や収入は、コントロールグループの親のものより低いのではないか?ふたグループの差はこれで説明できるかもしれない。しかも、片親だけが喫煙者である場合の効果が弱いということは(もちろんいろいろ他の要素との相関も考える必要があるが)、タバコを吸う量(intensive margin)も重要なのかもしれない。その場合、もし近年喫煙者の減少(extensive margin)に加えて、喫煙者であっても吸う量が減っているというのであれば、喫煙がSIDSに与える効果は更に弱くなっているかもしれない。どれもこれも「相関と因果」を重視する人であれば気にしなければならない基本中の基本である。こういうことを気にせずにおそらくは人々を煽る目的で4.7倍なんていう数字を使っていいのか。

受動喫煙の効果に限らず、確固たる「エビデンス」なんて経済学に限らずあまりないのではないか。最近「エビデンス」と叫んでいる人たちの「エビデンス」を注意深く見てみるとその思いがいっそう強くなっている。その場合、「エビデンス」とか叫びつつその背後にあるあいまいなところ・弱いところを隠すような不誠実な態度をとって非専門家を「だます」よりも、「エビデンス」が不十分であることを認めつつも、利用できる中でベストを尽くしているという態度をとる方が、長期的には「エビデンス」ベースの政策決定に対する信頼を高め、それをより広めていく上で役に立つと思う。

0 comments:

Post a Comment