How to Analyze the Current Policy Options in Japan, Part 2

第1回に続いて、政府が提案している経済政策の変更(消費税率を2%上げる際に全部を公的年金に使うのをやめて、1%を幼児教育無償化等に使う)を、簡単なモデルを使って分析するために、一歩一歩進んでいく。

前回は、どのような効果を取り入れたいかを考えてみた。今回は、モデルの構築に入ろうかと思ったが、その前に、データについてちょっと書いてみる。モデルをつかって意味のあるシミュレーションをするためには、モデルが大まかではあっても日本経済の特徴を表現していなければならない。ただ、現実は複雑なので、モデルが表現できる現実の側面は限られている。そこで、まずは、日本経済のデータをちょっと見てみて、どのようにモデルに取り込むかについて考えてみた。主に、政府の活動に関するデータについて書くつもりである。恥ずかしながら、日本政府の活動の大きさについて、あまり知らなかった。まだ、いろいろ間違いがあるかもしれないが、勉強の経過の記録として読んでもらえればうれしい。

今は2017年の途中であるが、2016年のデータはまだああまりきちんと整備されていないようなので、2015年のデータを見ていく。時々、過去はどうであったかについても触れる。

まずはGDP(国内総生産)から。2015年の名目GDPは530兆円であった。数字があまりに大きすぎて、直感的にわかりづらいので、これ以降は対GDP比で示していく。そうすると後でモデルにも対応させやすい。GDPの支出面での内訳を見ると、民間消費(C)は56.6%、政府の消費(G、政府による投資も含む)は19.9%、民間投資(I、在庫調整も含むが小さい)は23.9%、純輸出(NX)は-0%である。閉鎖経済モデルを使う時には、NXをどうするかという問題がいつもあるが、都合のいいことに、2015年は純輸出がほぼゼロなので、調整の必要がない。ラッキーである。もちろん、定義上、これらを合計すると支出面から見たGDP(100%)になる。

時々、日本政府の大きさは経済規模(GDP)の20%という表現を見かけるが、それはこの19.9%から来ているのではと思う。GがGDPに占める比率は年々大きくなってきている。1995年には15.4%、2005年は18.1%であった。ちょっと前のペーパーを見ると、GがGDPの15%としてカリブレートされているケースを見かけるが、ここから来ているのではと推測する。

ただ、GDPのデータをよく見てみると、「修正版」のCとGも記載されている。2015年でいえば、修正されたCはGDPの68.6%、修正されたGは7.8%である。最初にあげた数字とずいぶん違うが、これはなぜか?これは何を政府の消費(G)に含めるかという問題と関連している。修正していないG(GDPの19.9%)には、国防とかインフラ投資といった、まぁ、Gと考えるのがどう考えても適当だろうと思われるものから、教育への支出、医療への支出、社会保障関連費(失業保険、年金、障がい保険等)のように、最終的には個々の消費者が消費するものだから民間消費に入れるのが適切ではと思われるものも含まれているのである。特に、公的年金については、一般予算から公的年金に補填された金額がGに加えられているみたいだ。これらを政府の消費(G)と考えるか、民間の消費(C)と考えるかは、クリアな話ではなくて、何を分析したいかによるのではないかと思う。上で言及した「修正版」では、教育、医療、社会保障関連費をすべて民間の消費に移しかえたものなので、Cがかなり大きくなって、Gがかなり小さくなっているのである。

とりあえず、今回の分析で注目しているのは年金なので、モデルと付き合わせるときには、広義のG(GDPの19.9%)から公的年金に関連する部分だけをCに移そうと思う。Gのうち年金関連はGDPの1.9%なので、この調整後は政府の消費(G)は17.9%となり、民間の消費(C)は58.5%となる。しばしば、民間消費はGDPの60%というが、この数字と整合的だ。

では、一般政府(中央政府と地方政府の和)の支出と収入についてちょっと見ておこう。政府の支出はカレンダーイヤー(1月から12月)ではなくて、4月から3月であるがしょうがない。2015年(度)の予算規模は96.3兆円で、GDPの18.2%である。上で触れたGの数字とちょっと違うが、まぁ、予算だというのと、年度であるのと、いろいろ細かい調整がされているのであろう。財政収入を見ると、消費税からの収入は17.1兆円、財政規模の約18%、GDP比では3.2%である。その他の税収など(個人所得税、法人所得税、酒税など)はGDPの8.0%である。残りのGDP比で7.0%は新規の国債の発行に頼っているようだ。支出面で目に付くのは、既に存在する債務に関する支払いで、23.5兆円、予算規模の約1/4、GDP比では4.4%を占めている。ちなみに、既存の財務の支払いがGDPに占める大きさは2005年は3.5%であり、年々経済規模に比して大きくなっている。

ここまで「政府」としてきたものには、一般予算からの補填分を除いて、厚生年金や国民年金などの公的年金の活動が含まれていない。モデルでは、公的年金が重要な要素なので、公的年金が経済においてどのくらい大きいかを確認しておこう。いろいろな公的年金の年金受給額を合計すると、2015年は51兆円であった。GDPの約9.6%である。ちなみにこの数字は2005年には9.1%であり、高齢化が進み、退職世代の数が増えるにつれ、年金受給額の総額が経済規模に占める割合は大きくなってきている。2008年に世界同時不況が起こった際には、この数字が初めてGDPの10%を超えたことがニュースになったが、それ以降は、年金を受け取る世代の割合は着実に増えているが、再び10%以下のレベルに落ち着いている。

このGDP比9.6%はどのようにファイナンスされているか?働いている世代が払う拠出金の合計は2015年は33.8兆円であり、公的年金総受給額の約2/3、GDP比は6.4%である。年金は、働いている世代が払った拠出金を退職した世代に渡すというシンプルな構造が一番簡単だが、それでは、現在の日本の場合、働いている世代からあと50%多く取るか、あるいは、退職した世代の受け取る受給額を1/3カットしなければ成り立たないので、一般財政(消費税などの普通の税金)から差額が補填されている。まぁ、お金に色はないので、どこから出してもあまり気にすることはない。消費税がこの補填に役立っているが、労働に不のインセンティブを与える労働所得税を消費税に置き換えるのは悪いアイデアではない。

公的年金のサイズ(GDP比で9.6%)を政府の消費(17.9%)に加えると、合計の政府の活動のサイズはGDP比で27.5%となる。更に、モデルと比較するために既存の債務の支払いの分(4.4%)も加えると政府の活動のサイズは32.0%となる。

更に、公的年金と並んで既に大きく、今後高齢化で更に大きくなっていくのは公的医療保険である。今回行おうと思っている分析では医療費・医療保険は捨象するが、簡単にサイズだけ確認しておこう。2015年の医療費の合計は42.4兆円、GDP比で8.0%である。このうち患者の自己負担分は約88%のようだ。この分も加えると、広義の政府の大きさはGDP比で39%となる。時々、日本の政府の財政規模はGDPの約40%という数字を見かけるが、この数字は、このように、公的年金、公的医療保険、その他(失業保険等)も含めたものかと思う。

次回は、モデルを紹介する。モデルのパラメータを設定する際に、ここで見てみた数字とできる限り整合的になるようにするので、ここで見た数字がまた出てくることになる。

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