Some Papers by Stars in the Upcoming Market

このシーズンになると、ジョブマーケットに出るPhDキャンディデートの論文を見る機会が増えてくる。たぶんいいところに就職するであろう人たちのペーパーをいくつか見たので軽くメモしておく。よくわかってないものも多いが許してほしい。以下でも2つ挙げているが、最近は(自然)実験のデータをもとに構造モデルを作って、実験では見られない効果あるいは実験で得られた効果の背後にあるチャンネルの分析を行うような論文をよく見かける。

Daruich (NYU)
RCTなどにより、幼児教育への政府による財政補助の効果は大きいといわれているが、これまでの結果は、政策を大規模に実施したときに必要な税率の引き上げに伴う不の効果、および、政府の財政支出の増加によって子供の教育・所得水準が上がり、その子供が親になってさらにその次の世代の子供の教育水準を更に引き上げるという長期的効果を考慮できていない。このペーパーでは、親が子供に投資して子供の教育・生産性に影響を与え、更にその子供が親になってモデルが続いていくという一般均衡モデルをつくり、それらの効果を分析する。モデルの中で、税を引き上げる必要のない小規模なRCTを行うと、短期的な効果は実際のRCTの結果と整合的である。このモデルによると、税率の引き上げの不の効果は比較的小さく、子の教育・所得水準が上がって、その子が親になると更に次の子供の世代の教育・所得水準を引き上げるという長期的な効果はとても大きい。所得の不平等が政策によってどのように変化するかも分析される。

Cho (BU)
NKモデルの問題点のひとつとして、TFPショック以外のショックだと、消費と投資が反対方向に動いてしまうというものがある(いわゆるCo-movement puzzle)。このペーパーでは、失業のリスクが内生化されたモデルを使うと、予備的貯蓄動機が変化することで、co-movement puzzleを解決することができることを示す。通常のモデルでは、投資の生産性に対する負のショックがあると投資が減少するが、一方で生産自体が減少しないと消費は増えてしまう。但し、企業が投資を控えると同時に、生産を縮小するために求人も減らすというチャンネルを導入すると、失業者がすぐに職を見つけられる可能性が低くなり、労働者はそのような長期的な失業という状況に備えるために消費を切り詰め、貯蓄を増やそうとする。このようなモデルでは、投資の生産性が下がったときに、消費も減少し、co-movement puzzleが発生しない。

Engbom (Princeton)
ここ30年くらい、アメリカ(およびその他の先進国)で、労働市場のダイナミズム(新しい起業の数、別の企業に移る労働者の数等)が失われているといわれており、同時に、経済成長率も低下している(Secular Stagnation)。この現象を、高齢化→起業の減少→労働者が同じ企業にとどまりがち→その企業に特殊の技能を身につけて賃金が上がるので、起業したり別の会社に移ったりするインセンティブが下がる→起業の減少、というチャンネルで説明する。モデルは、労働者が次々と新しい企業に移るモデル(Moscarini and Postel-Vinay)にライフサイクルと起業のオプションを組み込んだもの。アメリカの州による高齢化のスピードの違いを使って、高齢化が経済成長に与える影響をデータでも分析。

Li (Chicago)
アメリカの2000年代の始めに、MBS(Mortgage Backed Secuirty)などのABS(Asset Backed Security)のトランシェ(資産を切り分けてリスクの高いものやリスクの低いものを作り出すこと)が盛んに行われたが、これは、逆選択(資産の価値がわからない買い手がリスクの高い資産を低い値段で買わされること)を緩和し、資産の流動性を高めるのに役立つので、均衡で起こりうることを示した。

Agostinelli (ASU)
Chetty and Hendren (2016)による有名なペーパー(子供の所得の高い地域に引っ越した家族の子供は将来所得が高くなりがちである)を元に、子供が別の学校に移ってこれまでと違うグループの友達と付き合うようになると、親が子供にかける時間がどのように変化し、そしてそれが子供の成績にどのように影響するか、を構造モデルを使って分析した論文。

Tsivanidis (Chicago Booth)
コロンビアの首都ボゴタで、2000年に高速バスネットワーク(道路にバス専用レーンを作ったりしてバスによる通勤を大幅に速くした)が導入された効果を、構造モデルを使って分析した論文。ボゴタの2800の区域の人々がこの高速バスネットワークの導入によって、どのように通勤パターン(車を使うかあるいはバスを使うか)あるいは働く場所を変えたか、企業がオフィスを設置する場所はどう変わったか、それぞれの区域の地価はどう変わったか、を見ることができ、いろいろな区域に住んでいる人がこのネットワークによってどのくらい得あるいは損をしたかを分析できる。

Fanelli (MIT)
近年は各国が、さまざまな通貨建ての巨額の資産・負債を保有しているので、たとえば金融政策によって為替レートが変化すると、対外資産・負債の価値が変わることで巨額の移転が発生することから、金融政策を考えるにあたっては保有資産・負債の価値への影響を分析する必要がある。この論文は、名目価格の硬直性があると同時に、資産・負債の通貨構成も変えられる状況で、最適な金融政策を理論的に分析している。鍵となるのは、通常の需要管理的な金融政策の効果と、為替レートの変化を通じた所得移転を使った保険の効果のバランスをどうとるかということだ。

0 comments:

Post a Comment